「行列のできる組込みセミナー&ディスカッション
〜最強のエンジニア&コンサルタント集団 (セミナー)」

おことわり:
議事録中に登場する講演者などのお名前は敬省略にて記載させていただいています。

コーディネータ: 橋本 隆成(SONY)
講師(発表順):
楠部 集(横河ディジタルコンピュータ)
西 康晴(電気通信大学)
佐藤 啓太(デンソー)
杉浦 英樹(富士ゼロックス)

日時: 2005/8/25 13:20- E会場
参加者: N/A
会場の広さ: N/A

前半はセミナー、後半はパネルセッションという2部構成で、前半のセミナーでは
SONYの橋本さんがコーディネータとして、4名の講師の方々がそれぞれのテーマで
講演をされた。

タイトル:「ツールの導入の勘所」
講演者:楠部 集(横河ディジタルコンピュータ)

本発表では、ツールインテグレータの視点から、ツール導入にあたっての
勘所となるポイントを本音で話された。

プレゼンのはじめに開発環境と方法論の関係についての話で、
方法論(モデル)はタイムラインに沿って連続性を持っている一方で、
開発のタイムラインに沿ってツールも連携を持ちながら開発が行われる
べき、とツールと方法論の関係を示した。

その上で、「ツールを連携させ、全体として効果のある支援機能を
持っていること」が大切で、開発環境は方法論の実装技術であると
位置づけられるのだそうだ。

開発環境を構成するツールの種類は主として3つあり、「プロジェクト
データ管理系」、「プロダクト管理系」、「プロセス管理系」とがある。
それぞれが方法論に沿った有機的な統合をして、開発環境を構成しいる。
ツール同士を連携するための検討ポイントとして次のような点がある。
+ 「方法論」議論されているか、誰が考えるのか。
+ 「ツール選定」ツールの拡張性、開放性についても考慮する。
+ 「コンサルは必要?不要」コンサルタントも専門性が必要なってきている。

タイトル:「品質で競争に勝つ 〜組込みソフト品質管理のツボ〜」
講演者:西 康晴(電気通信大学)

まず冒頭で、このプレゼンで話すことは明日からは実践できないと断言された。

現在の組込みシステムの問題点として次のような点が考えられるという
+ 機能要求の増大
+ CPU/ECU数の増加
+ ネットワークによる協調動作
+ プラットフォームが多様
+ 階層の増加
+ PCアプリの発生
このような現状を受け、技術者は「ついこの間まではリレーに毛の生えたもの
だったのに、、、いまはなんでこんな状況になってしまったのか。」と嘆いて
いる。

コンサルを受託している件数を見ても、圧倒的に組込みに関するコンサルを受ける
ことが多い。かつての携帯電話/カーナビは組込みの分野における最も品質の悪い
プロダクトのひとつだった。しかし、そんな品質の悪い製品が、いまや、もし
トラブルが発生すると生命財産を脅かすくらいの重要な役割を果たしている。
しかし、なぜ品質が向上しないのだろうか?というのが講演の出発点となっている。

このような状況になったのはなんでだろうか?と考えるとき、その原因として
次のようなことが考えられる。
- 低品質な開発資産の流用
- 流用開発によって、母体の品質に新しい品質が影響を受ける。ソフト部隊と
ハード部隊の連携に乏しい。
- 品質保証なんてやっていません!人もいないのだから
- 品質事故、納期遅延、赤字プロジェクトが多発
また、次のようなことをするための負けパターンが存在することがわかった。
- コストダウン優先によるデスマーチ化
安物技術を導入すると、品質低下を招く、そして手戻りが発生してデスマーチ
となる。
- 納期達成優先によるデスマーチ化
工数短縮による必要作業の省略、品質低下を招き、そして手戻りが発生して
デスマーチとなる。
結局、手戻りが負けパターンの本質であると結論づけた。

まとめとして、日本人で勝つための戦略のキーワードは「品質」である。
日本人は擦り合わせで必要なものをじっくり作り上げるタイプであり、
+ 品質で守る
+ 品質で攻める
+ 品質で幸せになる
という3点が大切なのだそうだ。組込みソフトを「もの作り」という分野にしよう
と提案をされていた。

よく企業で行われる「スローガン/ポスター/講演会」だけでは品質向上につなが
らない。講演を理解し、すぐに自分の会社に適用しようと、どうしたらよいかと
会社を見つめ直す。このような気持ちが大切なのだそうだ。

「品質で勝つことが最重要。」

タイトル: 「SWEST 7」
講演者: 佐藤 啓太 (デンソー)

EEBOFの主宰者でもある講演者は、「改善技術導入を失敗させるこつ
ー自分の会社のチェックポイントー」と題して、失敗させる為のポイント
を分類し、紹介していました。改善技術導入が失敗するときには次のよ
うな傾向があるようです。

改善担当者編
- 改善技術導入は開発者にやれといえ
- 上級管理者は担当者に全部任せろ

計画・企画編
- 目的を明確にするな
- 目指すべき姿を考えようとするな
- 現在の問題を分析するな
- 数値目標に根拠はいらない
+ 期間
- 中長期ではなく短期間で完了するテーマを設定せよ
+ カスタマイズ
- buzzword になっている技術を疑わず、信頼し積極的に利用する
+ スコープ
- 自分自身や、自分の組織に閉じたテーマを設定せよ
- ビジネス的要件は気にするな
+ 投資コスト
- 投資のためのコストは気にするな

展開/保守編
- 環境が構築できたらあとは実開発者に任せてしまえ
- 見直しは不要である

おまけー失敗しない為のアドバイス
- 成功するか否かは改善を実施する前に決まる
- ブレークダウンされた活動をしているうちに活動の意義を忘れてしまいがち

講演者が発表したチェックポイントはこれだけではなく、多くのチェックポイント
を挙げていた。ぜひ自分の会社に当てはめ、何ポイントとれるか考えてみて
いただきたい。とのこと。

タイトル:「組込み開発 何かがおかしい 組込みエンジニアは、どうするべきか」
講演者:杉浦 英樹(富士ゼロックス)

今、学会や書籍などで組込みシステムがさかんに取り上げられるようなった。
これまではほとんど注目を浴びることの無かった分野。これはいったいどういう
ことなのだろう?この疑問を出発点として、講演では組込み開発の現状において、
おかしいと感じている点を3つ取り上げ、どうしておかしいのか、ではどうしたら
良いかなどについて講演した。

おかしい状況1 「オブジェクト指向」

オブジェクト指向 = 「開発したモデルの複雑化が進み、難解なモデル」
となってしまった。

もともと、「新規機能が多く、再利用しにくいので工数がかかる。」とか
「新規機能開発量は少ないが、品質が低く工数がかかる。」という問題を
解決するためのオブジェクト指向だったのだが、現状を見てもいっこうに
これらの問題は解決していない。

原因としては、ソースコードを再利用をするときには、いろいろな制約を
伴うため、結局作り直して仕事を進めている現状があること。上流モデル
の複雑度が増したため、下流でも複雑度が増し、実装も難しくなっている
点。オブジェクト指向を実装する為にCから拡張したはずのC++言語は実践
レベルでの強引な仕様によって、さらに難易度が上がっていること。などが
考えられる。

以上のような状況では、オブジェクト指向を導入したところで、その目標で
ある「わかりやすいソフト」「作りやすいソフト」「バグの無いソフト」を
作ることができない。結局、オブジェクト指向は効率という点で構造化やそ
れ以前のパラダイムと変わらないものになっている。

おかしい状況2 「技術革新」
uITRONやt-Engineの思想は、開発を取り巻く環境のすべてに対する変革の提
案と考えることができ、すばらしい成果である。たとえば、t-Engineの会員
数をみても会社がどれほどこのような技術に興味を持っているかどうかわか
る。CPUや周辺デバイスの高速化も後押しする状況で、いよいよRTOSが応答
性を高く要求されるシステムでも用いられるようになってきている。

-> しかし、なかなか技術革新が進まないのはなぜだろうか。
これは、ミドルウェアの流通が鍵になるのではないかと考えている。

この他、おかしい状況として「連携が進んでいない」という点も挙げていた。

講演のまとめとして、これらの3つ状況を打開するためには、いろいろな技術
を正しく見る力が必要で、各要素技術が求められている期待の値に及んでいない
ということもある。技術を見るということは「技術の問題をとらえる分析力」と
「技術の問題を解決する行動力」が必要。その上で、本当に「重要な技術」と
「まねてすむ技術」を分別する必要があるとまとめた。

組込みエンジニアとして、「変化に適応すること」、「柔軟に考えること」、
「制約を作らないこと」、「楽しむこと」、「人のせいにしないこと」を
忘れずにいることが大切なのだという。物事を多面的にとらえ、よく吟味して
必要なものは必要と積極的に提案することで、行動力、提案力、投資を呼ぶ
力をつける必要があるのだそうだ。

セミナーセッションは終了、引き続きパネルセッションとなった。
(14:58了)