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8/25 20:30〜22:30
分科会1
セッションS1-4-4:「設計生産性危機はどこへ行った?」

コーディネータ: 冨山 宏之(名古屋大学)

席数 :約30席
参加者:約25名
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冨山:
分科会のコーディネータを務めさせていただきます冨山です。1960年代からソフトウェア
危機が叫ばれていたが、現状何とかなってしまっている。誰が何とかしたのか?を考えて
いきたいと思います。
冨山:
では、自己紹介と、議題に関する持論を皆さんに述べてもらいたいと思います。
それに基づいて、みんなで議論していきましょう。

A:
1人や2人で開発プログラムならば解決されていると思うが、大規模プログラミングでは、
まだ解決出来ていないのではないかと思う。

B:
ソフトウェア危機という言葉はあまり聞いたことが無い。しかし、いつもキツイという話
は聞いている。IT分野では言われていたが、組込み分野では今がソフトウェア危機なの
ではないか?

C:
危機はまだ去っていないと思う。過去からずっとあるのではないか?今の人は江戸や明治
の人よりも時間的、空間的に余裕が無い。例えば、研究室間の移動だけでも多くの時間を
取られてしまう。万歩計で計ったら、研究室の移動だけで1万歩いっていた。はたして、
組込み設計者は1次産業(百姓)のように朝起きて夜寝るの生活ができるか疑問に思う。

質問1:
デジタル機器に変わったときのパラダイム変換があったのではないか?
デジタルになったとたんにソフトが増えたわけではない。

意見1:
外目には一気に機能が増えたかに見えるが、内部的には徐々に進んでいったので、大きな
ショックではなかった。

意見2:
64Kを書いていた時代にソフトウェア危機が一度訪れたが、それはひとりの頭の中のこと
だった。このときは、多くの人間で開発する方法で解決されたが、現在のクライシスは大
勢の人間のあいだで起こっていると思う。

意見3:
ソフトウェアの開発に失敗したとしても、大企業ならばいきなり潰れることは無いと思う。
中小企業はそうではない。しかしながら、現実には大量の中小ソフトハウスが潰れたとは
聞かない。あまり潰れていないのは、誰かがリスクを背負っているのではないだろうか?

意見4:
危機ではないと思う。LSI設計の場合は、自然に解決されていると思う。要求の肥大化に
対して、自然とブレーキがかかっているのではないだろうか?要求に対して、成果が納得
できなければクライシス。

意見5:
私はソフトウェア危機は存在すると考えている。次の世代に開発者をやらせたいと考える
人が20%に過ぎないというアンケート結果がある。これはクライシスだろう。

質問2:
ソフトに投資する人が何人いるのだろうか?

意見6:
携帯電話の回収騒ぎのような大きな事件が起こればよい。

冨山:
これから先、半導体業界はどうやって生きていくか?

意見7:
システム的な設計を広めるべきだと思う。HW/SWを割り振ることが出来るような設計
者を育てるべきだろう。

意見8:
人によって、システム設計のレベルが異なる。業界にしろ、社内にしろ、まず定義する事
が必要ではないか。

意見9:
末端(実装先)に引きずられているようではシステム設計ではないと思う。HW/SW
含めて、どちらに通信インタフェースを適用するかが重要。

冨山:
話が脱線してきてしまったので、自己紹介に戻りたいと思います。

D:
設計生産性の危機は努力と根性で乗り越えてきたと思う。近年のソフトウェアはソフトサ
イズこそ大きいが、新規開発は少ないので解決できていると思う。また、それに従って設
計者のスキルはあがっていく。しかし、限界もある。今後は、開発者の人数の増加が問題
を起こすのではないだろうか?開発者が増えることでデバッガのアカウントの数が増加し
、結果として予算を圧迫している。

E:
再利用技術を利用することによって危機を回避したのだと思う。オブジェクト指向などの
ソフトウェア工学的なものに限らず、単なるコピー&ペーストも利用した。要求の2割引
で実現したりもした。

F:
例えば、携帯電話のソフトウェアの規模はリニアに大きくなっている。それにどう対応す
るかだが、何度もお客さんに納期を待ってもらっていた。危機を乗り切れたのはお客さん
の愛情だと思う。

G:
携帯電話のソフトはクライシスであると思う。10数社がばらばらに作っているソフトを1
社にすればよい。ただし、選択肢が1つになってしまうが。HW的な能力のあるものがシ
ステムとして実現できるか?ソフトを作るには時間がかかる。充分な開発時間があれば危
機を回避できると思う。

H:
20年後には技術者が不足すると言われているが、突然技術者が不足するわけではない。他
社に負けない、他社に先駆ける商品を作ることが大切だろう。クライシスというよりは、
淘汰であると思っている。

意見10:
10年後も組込みで働いていられるのだろうか?破綻していてもいいくらいだと思う。

I:
間違いなくソフトウェアクライシスだと思っている。プロジェクト遅延、赤字、設計者の
脱走など。クライシスがなくなると思っているほうがどうかしている。クライシスなのは
複雑度に対して、開発度がどうかである。ユーザーニーズに対応するためには複雑度を上
げなければならない。クライシスこそ商売のチャンス。クライシスに立ち向かう勇気が重
要だと思う。また、立ち向かうことで技術も向上する。

質問3:
人を死なせないコンサルは無いのだろうか?

意見11:
きっとモチベーションの管理をしているはずだ。ミッションクリティカルな部分の開発で
は、何時間以上働いてはならないなどの労働基準が必要だろう。

意見12:
プロジェクトマネージメントが必要だ。

冨山:
納期は必ず遅れるという話を聞いたことがある。なぜなら、優秀な人は楽観的になるので
納期ぎりぎりに仕上げ、また、そうでない人はスケジュール通り作れない。

意見13:
簡単に作れるものもでてきたが、それはもともと簡単だったのだろう。

意見14:
新製品をつくるとき、過去の製品と似た機能を追加しようが、似てない機能を追加しよう
が、複雑度は同じくらい増加する。

意見15:
工場製品の一品モノの場合は複雑度はそんなに増加しないのではないか?

意見16:
そもそもクライシスの定義とは何か?

冨山:
また話が脱線してきたので自己紹介に戻ります。

J:
海外では日本人ほど危機感を持っていないと思う。彼らは自己主張、交渉が上手い。反対
に、日本人は自分たちで何とかしようとして苦しんでしまう。

意見17;
海外ではスケジュールが遅延したら、スケジュールを組んだ者が馬鹿といわれる。

K:
クライシスを一言で定義することは無理だと思う。顧客が要求していないものまで作ろう
とするのがいけないのでは?

冨山:
気がついたら残り10分となりました。とりあえず自己紹介だけでも済ませましょう。

L:
根っこの問題を考えるべきではないか?対症療法的になってしまっている。

M:
今までとは異なるミドルウェアを使うときの拒否反応の大きさからクライシスが起きた。
例えば、ネットワーク機能が必要になったときのインパクトが大きかった。今までシリア
ル通信を使っていたのに、telnetを使えと言われたときなど。クライシスは、
    1.要求の出来るソフト屋がいない
    2.OSを使いこなす技術屋がいない
    3.ソフトの設計が出来ない技術屋がいない
    4.外注
によって、起きると考えている。

N:
組込みに関して  …HW/SWの境界が怪しい。一体に議論する必要がある。
クライシスに関して…ビジネスレベルでは仕事があるのに、生産が間に合わないのがクラ
イシス

O:
20数年前にメインフレームを作っていたのはHW部門だった。よって、SWは専門でない
人が作っていた。この結果、バグに追われ、悪循環となってしまう。
開発計画をちゃんと作る、ソフトをきっちり作ることが大切。プロフェッショナルな技術
者を育成することが大切。

P:
流通が大切だと思う。設計生産性を助けてきたのは再利用やIP、オープンソースOSな
どだったと思う。ソースや知識など、企業間で上手くやり取りできるような流通形態を作
ることが大切。また、技術者で高い山を作ってしまっているからクライシスだと思う。

Q:
ソフトウェアクライシスな状態はまだ無いのではないか。先行くみなさんの意見を聞いて
吸収したいと思う。

R:
大学の教育がマズイのではないか?エンタープライズ系は教育システムがしっかりしてい
る。組込みの世界では教育プログラムがまだまだ。組込みの世界にエンタープライズ系の
知識を吸収することが必要ではないか。

S:
ソフトウェアクライシスの存在はみんな意識していると思う。しかし、クライシスが実際
あるというわけではなく、上から思い込まされているのではないか?本当のクライシスは
会社がどんどん潰れること。クライシスを感じるのは世代交代があるからではないだろう
か?しかし、それは若い人が別のベクトルで解決してくれることでもあると思う。

T:
大きなソフトウェアクライシスは今後も無いと思っている。課題は一杯あると思うが、や
れば出来るレベルではないだろうか。

U:
2002年は組込み技術者を10万人増やそうといわれた。2004年は組込み元年といわれた。
2006年は組込みクライシス。いっそのこと開き直ってクライシス宣言をしてしまおう。そ
して予算も一杯貰えるように叫ぼう。みんなで楽しめばいいんじゃないか。
クライシスFooooooou!

V:
外の人に知識が無いことがクライシスだと思う。一人でやっていた時代に対し、規模が増
えると一人ではやっていけない。チームでどうやって仕事をするかを大学で学習できると
よい。チーム開発、個人開発それぞれの経験を積ませることが大切。

冨山(まとめ):
結論はでない!みなさんの発言の中から面白いなと思ったものを紹介させてもらいます。
・とにかく時間が無いことがクライシス。
・大企業に余裕があって、それがクライシスを救っている。
・次世代に組込みをやらせたいと思う人が20%なのはクライシス。
・クライシスといいながらも、開発規模がどんどん大きくなっていることは産業が発展し
 ている証拠。仕事がないというのが最悪のクライシスであるが、それはまだ訪れていない
  。クライシスと叫びながら予算を取って楽しもう。

冨山:
以上を持ちまして、分科会を終わらせていただきます。お疲れ様でした。