7/23 SB-6「設計構造の与えるインパクト」議事録 講師:奥村 洋(ナレッジ・エッジ) C会場 参加者20名弱 ======================================== これは「設計構造の与えるインパクト」というよくわからないタイトルですが、設計の構造 がどのようなインパクトを与えるかを考えた上で、話をしていきます。 はじめに: (SWESTのページを説明。) 日本は製造業が一番力を持っていると言われている。経済産業省もそのように言いますが、 いったいどうなんでしょうか? 設計構造について: 設計構造には基本システムがあります。アーキテクチャとは「システムを構成する部分への 分割の仕方」と「その接続関係」のことです。アーキテクチャはなるべく長く使うことを意図 して設計されます。また、アーキテクチャは製品設計と設計実現に影響を与えると考えられ ます。 製造業における競争力の変遷イメージ: 日本の競争力の二分化が起こっていると考えられます。高度成長からバブル崩壊後までに 何が起こったのかを考えていきましょう。 高度成長からバブル前は世界中が日本の生産力に追いつけということになってきた。それで 最終的には貿易摩擦が起こってきた。その後、バブル崩壊で計画性の無さなどで日本は痛い 目にあった。 アーキテクチャの比較優位: 日本の製造業が強いのはクロースド・インテグラルであると考えられます。弱いのはオープ ンモジューラです。 日本の得意分野である自動車などはこのクローズド・インテグラルに含まれます。 弱いオープンモジューラにはパソコンなどが含まれます。 競争力の分解イメージ: 1990年代にはアメリカで日本の製造というものを形式的形にして研究してきた。バブルの 崩壊では日本の製造業の強さは変わらないんですが、表の競争力、裏の競争力バブル崩壊 後、裏の競争力を維持して表の競争力を保ってきた企業がうまくいっている。 設計構造: 今、話したことをもう少しエンジニアの方々にわかりやすく喋ろうと思います。 UMLとアーキテクチャ: システムが複雑なものこそ、複雑として扱うのではなくどう扱うかがエンジニアが考えな ければならない。Complexとは複数に分解可能な構成要素によって構成されているもの。 DSM(Design Structure Matrix): DSMとは設計要素とその依存関係を表現するための道具です。このような表を使うと要素 同士がどのような関係であるかを知ることができます。 設計のパターンと複雑度: 設計要素の中にABCDEという要素があるとします。  全て接続、   これは全ての要素が双方向に接続されているものです。  階層接続パターン、   これは要素Aが最上位にあり、BCDEと順に下の層になっているパターンです。  隣接相互接続パターン、   これは隣接する要素が相互に相互接続されていているパターンです。  パターンなし、   こちらはランダムに要素が接続されているパターンです。 複雑化は×がどれだけあるか、もしくは×のパターンによって表されています。 複雑ではないが×が無いほうが難しいということもある。 DSMを使うと実際にどんな風にシステムを表現できるかを見ていきましょう。 凝集度と結合度: XのモジュールとYのモジュールそれぞれにABC、DEFの要素があるそんなパッケー ジがあるとします。X,YというモジュールもDSMの中に入れると、単純に要素の関係 を表すのではなく、モジュールの関係も表すこともできます。 モジュラー構造とインテグラル構造: インテグラル構造は分割したとしてもこのような関係がでてくる構造です。つまり、どの 箱にも含まれない依存関係がでてきます。 モジュラー構造では分割すると、どの箱にも含まれない×(依存関係)をなくすことができ ます。インテグラルな構造は点線で囲まれたところを一つの要素と考えることができます。 ルートを辿ると基に戻るのがたちの悪い構造です。 設計構造の変更操作: これはモジュールかオペレーションのことで、操作の基本的なオペレーションです。 内容について説明していきます。 今、モジュールとインテグラルについて説明しました。 こういうオペレーションがあります。  分離:   これが先ほどでてきた全体をどのような箱にいれてやるかの作業です。   交換、追加、削除は比較的に簡単です。  集出:   これらの同じことをするのを一つにまとめてやる  転用:   転用は他のシステムで使っていたものを他のシステムで使うことです。 設計構造のモジュール化: 並び替えるとだいたいこんな構造になります。分割してやって、依存する部分と依存しな い部分に分けます。 デザインルール: この部分をデザインルールといいます。先程のモジュラーな構造を思い出してください。 これは何を意味しているか? 共通でみんなが守らないとならないルールがあります。お互いに依存なしに設計できるの がモジュール化した構造です。 設計構造とプロセス: 今、何を説明したかというと。 DSMを使ってインテグラルとモジュラーという日本人が得意といわれる構造化について 説明しました。 設計構造−タスク構造−作業フロー: 設計構造がタスク構造、作業フローにどういう影響を与えるかを見ていきます。 設計の構造が決まらない限り、何も決まらない。逆に言うとこれが決まれば真っ黒にして も大丈夫。設計者の目で見た設計の構造と自分の目で見る作業の手順は強い関係がある。 設計構造の相続: まず設計の構造があって、設計により構造、機能、価値になる。それを設計に入れること ができ、タスク構造も変わらない。設計構造を変更した場合は、タスクの構造も変わって くる。 プロセス改善活動: みなさんがこれに苦しんでいると思います。コストを考えなければならない。 これは無駄の排除です。うまく排除ができればこれ(プロセス改善)ができたということに なる。しかし、これをやっても物はできない。そうはいってもこれをやらないと効率はあ がらない。 日本は設計主導型の改善。: 日本は右から入るとうまくいってない。しかし、左からだとうまくいっている。 1990年代までは、いろいろな物の作り方があったんですが、だんだん形にはまって、やら ないといけないことが決まってきた。 プロセス改善活動の推移: ゴールは組織力の向上ですが、方法が違う。欧米ではどのようにすれば効率が上がるかを 考えている。だから計画的に変わっていく。 日本では偶発的にプロセスを改善していく。こういうようにできていないのが問題ではな い。これを成功させるには 適応的ソフトウェア: これはJames A.Highsmithという人が考えたものなんですが。適応的管理することで双発的 成果が得られるのではないかと考えた。 欧米的手法が成り立つ背景: いろんなものが違うように見えます。 この図は日本と欧米の図を描いて増す。これは典型な形です。欧米はトップが考えて、下 にどんどん伝える。 これに関して、日本ではトップがこれをやってよと命令し、下がそのまま実行します。こ の方式だと、目的があいまいになるだけで、情報が上がってこないことがある。 ピラミッド型人材分布と均質な人員分布: これは社会的な考え方の違いだと思います。 組織能力の働き方の違い: 今後これが大きくなったときにどっちの構造がいいか? メンタリティの違いのヒント: 確かにこういうところがあると思って、なかなか面白かった。 これは極端な話なんですが、狩猟民族的思考と農耕民族思考という風にわけて考えてみる と、狩猟民族的思考では、即断即決、いまそこにある成果を狩る、次回の戦い方を創造す る、戦う前に戦略をじっくりと練るなどがあり、農耕民族的思考では、継続的調和、いつ かできる成果を刈る、前回の失敗を反省し修正するなどです。 このように2つにはメンタリティのおおきな違いがある。 組織能力と製品競争力の向上: 今、基本的なメンタリティーの違いは何に現れるかというとこれ(組織能力と製品競争力 の向上)に現れてくる。構造化度が高いということは複雑なものをうまく取り扱えるとい うことです。完成度は物のできを表します。 2つの軸を考えると、複雑なものを扱って完成度の高いものを作れるかがわかる。 この違いはメンタリティーの違いからくる。このような関係があります。 組み合わせと擦り合せ: インテグラルでは作りこみが可能。 ルールは変えたくない。しかし、変えないとうまくいかない。 どこまでやれば自分の仕事をしたのかが不明瞭。 インテグラルはすり合わせ、モジュラーはすり合わせをしなくてもいいようにしている。  1.日本企業が持つ「統合型もの造り組織能力」はインテグラル構造と相性がよかった  2.欧米は戦略的にモジュラー構造に取組んだ  3.日本企業の強い産業と弱い産業の差は「組織能力」と「製品構造」の相性の差でできた 設計構造について−その2 このようなことを考えて設計していかなかなけれればならない。 ・設計構造は、タスク構造に影響を与える ・タスク構造は擦り合せと組み合わせで考え方が異なる ・設計構造は、製造工程にも影響を与える。 これからどこに向うのか: モジュール化と創発 日本では箱の中で創発なものが作られてくる。これではよくわからない。 日本と欧米の違いは生み出す境界がこういう風に閉じてるか閉じていないかの違い だと考えられます。 ディジタル領域のモジュール化の特徴: 1990年、欧米にいじめられた日本、とくにデジタル分野ですが、これはオープンだからで す。製造業は強いと言われても、やはり、戦略的に考えると非常に厳しい。スマイルカー ブ現象というのがあり、これは工程の上流(企画設計・施策など)と下流(アフターサービ スなど)では付加価値が高いが、工程の中流の組み立て生産では付加価値が低くなるという ことを表している。 日本が真ん中(工程の中流)をやってるとやはりきつい。 欧・米・アジア: これからわれわれが何をしていけばいいのか。 アジアというひとつの枠組みになると考えられる。これから戦うにはアジアという領域を 考えていかなければならない。  欧州はブランド重視の擦り合せ製品が得意領域  アメリカは知的集約的なモジュラー製品が得意領域  日本は統合型製品が得意領域  韓国は資本集約的なモジュラー製品が得意領域  中国は労働集約的なモジュラー製品が得意領域 このように得意領域が地域によって違う。 われわれエンジニアでも関係する。なぜかといわれるとすり合わせでやるとうまくいかな い。設計構図から考えるとデジタルカメラとかでも二極化がすすんでいる。小さいものに いかに詰め込むか。同じ製品でも物の作り方でいろいろ変わっていく。 日本の製造業の方向性: 今まで通りの擦り込み型開発と組み合わせ型開発のどちちにいくか?。 日本的な強みがでる擦り合わせに集中しようとした場合、重要コンポーネントを擦り合わ せ型開発で実現し、また、汎用コンポーネントを擦り合わせて品質の作りこみをしなけれ ばならない。 日本が抱えている課題:  組み合わせ開発でこのようなメンタリティーを持つことができるか?  性能を犠牲にしてまでモジュールメンタリティへの変革ができるのか? 擦り合わせ開発では、過剰対処能力による開発の複雑化、擦り合わせに強いエンジニア数 の減少化、成果主義と終身雇用の崩壊、正社員中心の環境から派遣社員の増加が問題として 挙げられ、これらを克服できるか? 設計構造について−その3:  インパクトが与えるのはさらにビジネス上の問題にも発展する。  さらには、一企業を越え、サプライチェーンにも影響を与える。 最後に: これからの組み込みソフトウェアエンジニアに求められるものは以下のものがある。 ・ソフトウェアに留まらず、システムとしての視点を持って考える ・アーキテクトとしての資質を鍛える ・自分がどういう産業分野に置かれているか、どういう作り方をしているかを常に意識  する ・自分の置かれているコンテキストを理解する ・その位置に必要なスキルセットを見極める ・常に具体的なグローバル感を持つ 是非、このような考え方を持ってもらいたい。 これから、ものづくりのスタイルが変わっていくと考えられる。 質問者:壮大な話で何度かとんでしまった。     グローバル化は実務でやらないと実感がわかない。     私は幸運にもそのような機会がある。     1依存関連からアーキテクチャの善し悪しわかるか?     2実際にDMSを適用できるのか?     3アーキテクチャの寿命はある。日本で使うということを前提につくられたアーキテクチャを      世界で使うときにアーキテクチャは壊れる。      このようにしてアーキテクチャの寿命は縮まる。      役に立つのか? 奥村: 1アーキテクチャのよしあしの基準はできるか?ということですね。      できると思う。      やってみてよさそう。それはどれだけ目で見た形にできるかである。      現在取組んでいる。     2DSMでできる。粒度による。四角のどこまで見るかにかかっている。     3一般にアーキテクチャを考えると2つの考え方がある。      どこがあたらしいかをとらえるのが大切である。