================================================================================ チュートリアル1 セッションSA-4 タイトル:「組込みソフトウェアスキル標準と使い方 −実演付き−」 講師  :大原 茂之(東海大学) 渡辺 登  (沖通信システム) 席数 :B会場(180人) 参加人数:約60人 ================================================================================ 渡辺さんのコメント: このデータは我々組込み技術者数や規模がどのくらいなのか、その必要性等を経済産業省 の活動の一巻として集計したデータです。 それによると現在の組み込み技術者数は約15万人、規模は2兆円、生産高は10億円と なっています。今後これらがさらに発展していくためには、そのためのプログラムやシス テムを作っていく必要があり、人材育成や組織の開発力を高めて組み込みシステムの質を 高める事が重要です。 ================================================================================ 大原先生のコメント: 今回は「第22回組み込みソフトウェア開発強化システムフォーラム」の抜粋と我々が 提案するスキル標準を説明します。 現在の組み込みソフトは製品のバグや納期の遅れ等のトラブルが頻繁に起きているが、 それに対して高性能化や納期が短くなる等の傾向があり厳しい現実がある。 例えば、2002年の2月には携帯電話の不具合による23万台の回収や、2003年 3月、航空機の計画処理システムダウン等の問題が実際に起きている。 そのため、組込み業界をこのまま放置しておく事は問題である。 ソフトウェアエンジニアリングセンターによれば、  ・先進的ソフトウェア開発などによる成功例作り  ・競争原理の向上  ・ソフトウェアにおけるわが国の強みをさらに強化する といった事が重要であるとの事である。 組み込み業界のスキル標準のモデル化が必要と考え、NECの門田氏を委員長に、そして 東芝の田丸氏を副委員長とした「組み込みソフトウェア開発力強化推進委員会準備会」を 2003年10月に発足。 こちらではSESSAMEの成果を大いに活用して活動している。 一方、「組込みソフトウェアスキル標準部会」を私の主催で発足した。メンバーとしては SWEST もご活躍されている名古屋大学の高田先生やSESSAMEの二上さんなど、多くの方が いらっしゃいます。 現在の組み込みソフトウェア業界では次のような大きな問題点がある。  1.量的爆発  2.厳しい制約(開発期間の短縮(大半が約半年以内)、          ハードの性能が上がる事によるコストの制約など) それに対する解決策として各企業や大学がバラバラにものを作るのではなく、個々が共通 の形態をつくる事が大切である。 組込みソフトウェアには、情報処理型と制御型がありどちらも通常のPCアプリケーション とは異なっている。そのために、まずは基礎となるデータの収集が必要となる。 組込みソフトウェアは、家庭にある洗濯機から航空機の制御まで幅広いジャンルに適用す るものであり、現在は全く整理がされていないため、共通の認識が出来ていない。 日本のソフトウェアの輸出は輸入の約3%のみであり、その3%についても海外の日本法 人が利用する程度で、ほとんどのものが世界に貢献できているとは言えないのではないか。 それに対して日本の組み込みソフトウェアは世界で幅広く使用されている。しかし、この ままこの業界を放置しておく事は問題であり、フレームの標準化や育成のしくみを早く作 るべき。そして大学ではキャリアは問題ではないが、企業ではキャリア体制が大事な要素 となっており、その体系化も必要。またスキル標準を作成する事で育成カリキュラムやキ ャリアの体系化も可能である。 しかし、多岐にわたる組み込みソフトウェア業界のすべてを1つに標準化する事は不可能。 企業内で秘密にされる内容も多くあるが、それらを出さなければ標準化が出来ないという 相反する問題もある。 まずは問題を具体的に整理しなければならない。 SESSAMEの活動を出発点としてフレーム構造を作成し、準備委員会を設立した。 SEC 組込みソフト開発力強化委員会は企業、大学のボランティア総勢60名でスタートし た。詳しくはIPAのホームページに載っているので参照して頂きたい。 事業としては組込みソフトだけで無く、組込みシステム、システムLSIのスキル標準化 への発展を考えている。 組込みソフトウェアの定義は「製品や装置の機能仕様を実現する部品」である。部品とい う性格から文化的制約をブレークスルーし、広範囲な受け入れを行う。 現在の組込みソフトウェアの開発期間は6ヶ月未満が約40%、6ヶ月〜1年未満が 約40%とこれだけで全体の80%を占めている。その中で開発量は巨大化する一方であ り、厳しい要求となっている。 組込み技術者は、その仕事の性格上、あるドメインに留まればそれに関する内容に強くな り、別のドメインに移ればまた初めからのスタートとなる。 私はハードウェアで出来ない部分を行うものがソフトであると考えるが、ハードウェアか ら来る多くの課題がソフトウェアに回ってきてしまっている現状がある。 組込み業界の利益獲得の構造は? 今までの価値はハードウェアの大量生産で歩留り良く、高品質のものを作る事で確立出来 たが、ソフトウェアがシステムの多くを占めるとなると工場に入る前にその価値が決まっ て来る。つまり、開発段階で収益を上げるビジョンモデルが必要となる。 工場とは別に開発段階で企業戦略を立てる必要がある。 戦略を立案する人材、メンバー構成など、あるプロジェクトを完成させるための技術、 スキルをもった人材を評価し、プロジェクトにマッピングする必要がある。 人を先に選ぶのでは無く、まずは社内で持っている技術、スキルを評価し、その結果から 人材をマッピングする必要がある。そのためにはスキル標準を策定する必要がある。 製品ドメインごとにスキルを評価する物差しが必要であるが、物差しはだれが見ても明ら かである必要があり、各企業がどの位それに必要な情報を公開できるかが問題となる。 企業は物差しとなる共通のフレームを使用して自社を評価してもらいたい。 しかしそのフレームが異なっていては使用が難しくなってしまう。 そこで本委員会ではスキル標準のフレームワークを明示し、キャリアアップの為の職種の 事例を提示、スキル標準の標準策定例を提示する。 これらの目的に向けて7月からスタートした。 狙いは人材育成、人材活用、ビジネス、教育機関にある。 オーバーヘッドとなってしまうが教育側の人材育成も必要である。 スキル標準におけるスキル評価はスキルフレームワーク(組込みソフトウェア開発に必要 なスキルを体系化し整理するための枠組み)、職種モデル(個々のエンジニアが開発組織 の中でどのような立場でどのような作業を担当するか)を各企業ごとに決めてもらい、 そこに技術者、プロフィールをインプットする事で行う。 そしてそこからのアウトプットをキャリアパスモデルとして、キャリアアップやプロジェ クト編成、スキルアップに利用する。 スキルの評価方法 知識のみはスキルとは言えない、出来なければスキルとは言えない。 ここで言うスキルとは作業の遂行能力の事である。 スキルは4段階で表す。  レベル1:上位者の指導の元に実施可能  レベル2:上位者の指導無しで自立的に実施可能  レベル3:下位の技術者の指導が出来る  レベル4:経験を体系化し、先進的やり方を工夫、開発出来る 職種の評価方法 職種も4段階で評価する。   初級:指導を受けて問題解決が出来る   中級:指導無しで問題解決が出来る   上級:社内において該当職種/専門分野に係るテクノロジやビジネスをリード出来る  最上級:人材を育成し、技術開拓や市場化をリードし、マーケティングが出来る これらの評価値をドメインごとに最適と考えられる関数に入力し数値にする。 例えば単純平均を求める。 例えば職種がアーキテクトであれば、要求分析、ハード/ソフト分割、再利用設計、SV 分離などを評価し、平均を出してみる。その値が例えば5段階評価(0〜4)で3であれ ば上級アーキテクトとして評価出来る。これをキャリアシフト、キャリアアップに利用し、 プロジェクトを編成していく。 組込みソフトウェア開発では種々のドメインによる専門性が細分化される為、職種のバリ エーションを細分化する必要がある。例えば、自動車というドメインでは細分化出来ない。 これを要素技術まで分析する必要がある。 ================================================================================ 渡辺さん デモンストレーション「渡辺のぼるの自称「アーキテクト」のスキル診断」 これから行うデモンストレーションを見て、みなさんからの意見を頂いてそれをフィード バックして生かしたいと思う。 ====自己紹介====  ・アーキテクト 渡辺登  ・取得資格    情報処理試験、ネットワークスペシャリスト、    情報セキュリティアドミニストレータ、    第2種情報処理技術者試験  ・経歴    キャリア向け交換機ソフト開発などを行い、早い段階でチームのリーダーを任され    て来た。 ここでお見せした名刺やプロフィールと実際のアーキテクトはマッチング出来るのか、 経歴書から得た私のイメージは? ====評価==== 要素技術、開発技術、管理技術の各スキルカテゴリごとに評価を行う。 −要素技術− 要素技術を作れる(作成レベル)、使える(利用レベル)スキルとして2つのレベルで評 価する。アプリケーション・ミドルウェア、デバイスドライバ、OS・プラットフォーム などの中項目ごとに一つずつ評価して行く。 例: アプリケーション  ┗有線通信    ┗「音声通話(アナログ回線、ISDN回線)」の作成レベル/利用レベル    ┗「CATV」の作成レベル/利用レベル       :  ┗無線通信    ┗「携帯電話」の作成レベル/利用レベル    ┗「ワイヤレスLAN」の作成レベル/利用レベル       : デバイスドライバ  ┗通信デバイス    ┗「バス制御」の作成レベル/利用レベル       :  ┗映像デバイス    ┗「静止画圧縮」の作成レベル/利用レベル       : OS・プラットフォーム  ┗OS・プラットフォーム    ┗「ブートローダ」の作成レベル/利用レベル    ┗「メモリ・資源管理」の作成レベル/利用レベル       : −開発技術− 開発技術の各中項目ごとにスキルレベルを評価する。 例: 要求分析・定義  ┗「要求の獲得・調整」のスキルレベル  ┗「要求分析・定義方法」のスキルレベル     : システム設計  ┗「設計方法」のスキルレベル  ┗「構造設計」のスキルレベル     : ソフトウェア設計  ┗「設計手法」のスキルレベル  ┗「構造設計」のスキルレベル     : −管理技術− 現在作成中のため年度末までに掲示したい。 以上の結果を明確にグラフで表示して評価する。 ====応用ドメインのスキル診断結果==== 自称「電話屋」であるが、評価のグラフによって現在自分の持っているスキルが世の中で 減衰してしまい、高揚価値が下がっている事を明確に見る事が出来る。 標準規格に対して作成/利用スキルを示す事が出来るのではないだろうか。コンシューマ 向けの作成スキルはあるが、インターネット向けの作成スキルは無い(利用スキルのみある) 事が評価出来た。 ====まとめ==== 名刺の「アーキテクト」に対してふさわしい人間だったか。 スキル診断結果としては「公衆網通信限定アーキテクト(中級)」と言えばいいのか。 履歴書とスキル診断結果、どちらが良かったか。やはり両方必要ではないか。 応用ドメインのスキル項目が重要になると思う。 質疑応答 Q.発言者不明(名乗られませんでした) A.組込みスキルと一般系のスキルの関係をどう考えるべきか。  例えば上司とのコミュニケーションは下手だが、プロジェクトを取りまとめる事がうまい。  また、作成スキルがあって利用スキルが無い事がありえるのか。 A.  エンジニアの必要条件として使用してほしい。決して十分条件では無い。  例えば、リアルタイムOSのカーネル設計経験はあるが、システムコールを使いタスク を設計するスキルが無い場合など。  ただし、今回のデモンストレーション上の入力ミスとも考えられる。  また、使った事がないとスキルと呼ばない。 Q.SESSAMEの大西さん  プログラムは作成出来ないけれど、作成に対して意見を主張出来る場合は?  作成経験は無いが、標準化にのみ携わるだけ、こういった方の場合はスキルと言えるのか。 A.  要素技術のスキルは持っていて、プログラムのスキルが無いと評価する。  作成スキルが4(スペシャリスト)と評価する。スペシャリストにはプログラムを作る事で はなく他の事が求められる。 Q.名古屋市工業研究所の小川さん  文化依存の面が広い訳ですが、どう表現していくのか。  ITスキル標準は各資格による評価のみでは役立たないために必要として作られている。  これとの違いは。 A. あくまでも技術としての側面でのみ評価を行う。 日本から海外に浸透させるためにはすり合わせが必要。 ITスキルはスキルと呼んでは駄目だと考えるが、レベルが7まであり今回の提案はレベ ルが4まで。この差のせいで混乱が起こると予想されるので、その理屈付けはこちらから 提供する。 記録者自身の感想 どのようなジャンルでも標準化は必要であり、そこが明確にならない限り安定した発展は ありえなと私は思います。現在の組込み業界は各企業や大学が別々に標準化を行っている ため、業界内が混沌としてしまい、このままでは今後さらに製品トラブルが起きてしまう のではないでしょうか。 今回提案されたスキル標準が早急に完成される事を願っています。そのためにも出来る限 り各企業や大学が協力し合って標準化を進めるべきだと思います。