セッションF-3 分科会「オープンソースは組込みに使えるか」 会場の広さ:100席程度 参加者:約20人 ※以下敬称省略 宿口(三菱電機マイコン機器ソフトウエア) 各々意見を述べ、それについて意見をしていく形で進めたいと思います。 最近やたらオープンソース、オープンソースと言われていますが、世の中 で言うほどには使い勝手はよくないと言われます。そういった状況で、オ ープンソースが組込みシステムに使えるかどうかは個人的に甚だ疑問です。 エンジニアの気持ちとして使えるから使っているのでしょうか。上からの 指示で使わされているのではありませんか。古い人間は他人のプログラム を嫌う傾向にあります。それは自分の手の内にないのが怖いからです。何 かあった時に対応できなければ製品として責任が果たせないからです。 心配な要因をあげると、一つはソースコードの品質です。ソースコードを 見る人のレベルが高くないとレビューの意味がありません。様々なコミュ ニティで見られますから、どんなレベルの人が見ているか分かりません。 その中でソースコードの品質を保っていけるのでしょうか。 二つ目に保証はあるのでしょうか。何かしら問題が発生したときに誰が責 任をとるのかが明確でありません。ソースコードを書いた人に責任を問え るのでしょうか。 三つ目に継続性、コミュニティのモチベーションをどう維持するのでしょ うか。組込みシステムは収めてから10年、15年メンテナンスしていかない といけません。コミュニティはその間付き合ってくれるのでしょうか。フ リーソフトウェアのほうを見ると学生の頃は非常に活発なのですが、就職 すると衰退していくようなものも多くあります。 四つ目は様々な知的財産の問題があります。GPLのことについては明確にな りつつありますが、まだまだエンジニアは法律のことに鈍いので、分から ない間に違反していることもあるかもしれません。せっかく安定して動か したのに10年後に実はダメだったということになると非常に困ります。 五つ目に開発環境で、ソースコードだけあっても仕方がないということが あります。最近出てきつつありますが、今ひとつうまく組み合わされてな いように感じます。コミュニティに依存しすぎているような気がします。 六つ目オープンソースとフリーソフトの違いです。 商用ソフトは最初から責任をもってやるということが最初の契約として当 たり前のことです。企業ですからきちんとやってくれそうですが、コミュ ニティに任せられるのかという懸念があります。また、エンジニアとして、 仕事の成果であるソフトがタダというのはいかがなものかと感じたりします。 しかし実際使われていますので、そういった方々のご意見を伺いたいと思います。 エンジニアA 私の会社では業務用機器に携わっています。業務用なので色々と品質について の要求は厳しいものです。価格もです。そこで色々なソフトを持ってこようと 努力しています。そこでオープンソースならタダだから使えないのかと上の方 から言われ検討しています。検討していて、何箇所か適用できる分野を作って いこうとしています。 現在オープンソースのソフトを用いて組み込みシステムの開発を行おうとして います。そこでオープンソースは使えるだろうという立場でお話をしたいと思 います。 懸念されることとしては品質面が上げられます。どれだけの品質が保証できる かは大切です。私は人の目に触れれば触れるほど品質が上がるのではないかと 考えます。その観点からはオープンのほうが品質は上がると考えられます。 もう一つは守秘義務についてです。先ほどのセッションの説明では、下のほう のドライバは法的には保護されないということでした。その通りだと思います。 下のほうの同じようなドライバに特徴を持たせるのではなく、上のアプリケー ションのほうに特徴を持たしていくべきだと考えます。そこで、下のほうのド ライバなどは徐々に手放していくべきだと考えます。 勇気と知恵で頑張っていきたいと思います。 内藤 最近オープンソースを使ってで困ったことがありました。今JAVA VMをやって いるのですが、某ライブラリを使っているのですが、これは色々なところから 寄せ集めたものなのでライセンスが20とか30とかごちゃ混ぜになっています。 そこで危ないなということでこれを使うことはやめようということになりました。 オープンソースを使うことはいいと思いますが、微妙に違うライセンスのもの が集まってしまうと別の問題が発生します。オープンソース自体の未来はある と思いますが、これが寄り集まった時に違う問題があるのだと思います。 宿口 使えるのだろうけど法的面で不安だということですね。 邑中(もなみソフトウェア) 私はTOPPERSプロジェクトに関わっています。元々組込みシステムに関わるソフ トウェアのはソースが公開されていました。ですから親和性は高いのではと考 えます。オープンソースのビジネスは、実績ベースで言うと3期やってきて売上 の2%いかないくらいです。私は、オープンソースが進むとプログラマの分類が 製造業ではなくサービス業になるのではないかと漠然と考えています。酒屋に例 えることができると思います。昔は自宅でお酒を作って飲んでいましたが、流通 が発達してくると酒屋はお酒を作るのではなく売るところとなりました。このよ うなパラダイムシフトがおきてくると思います。しかしサービス業と言うと怒る プログラマの方もいらっしゃいます。オープンソースが成功した暁には、これ についていけない人が出てくるのではと思います。 宿口 使えるのでしょうけど薄曇りが続いている感じがします。 江端(イーエルティー) オープンソースであることとライセンスフリーとを分けて考えたいと思います。 ソースコードが分かることはある意味いいことだと思います。先ほどおっしゃら れたように元々オープンでしたがあるとき突然クローズドになりました。クロー ズドの場合、オープンになった時に明らかになるような部分はいい面も悪い面も 隠蔽されているので、何かあっても問題ないというふうに考えられてしまうかも しれません。実はクローズドと言って、昨今は見ようと思えば見れるので、そう なると権利問題はオープンでもクローズドでも変わりないかと思います。 通信プロトコル関係は皆さんソースを持っていると思いますが、これは何かあっ た時に責任を持てるようにということからです。万が一の時も、自分で何かでき るという広い意味での責任を持てるようになります。責任の問題に関してはオー プンでもクローズドでも、誰がディストリビューションするかである程度責任問 題は回避できると考えます。例えばコミュニティから直接ダウンロードする場合 は自分自身で責任を持たなければなりません。商用のものと同じように、ディス トリビューターが存在する場合はそちらがある程度責任を持ってくれます。 フリーについて、タダなのはいいのですが、モチベーションが保てるかが問題と なります。コミュニティのモチベーションをキープするようなものを持たないと いけないと考えます。使う人が広く薄い範囲でお金を払うとかしてコミュニティ に還元することが望ましいと考えます。 宿口 今一スカッと晴れないですね。 清原(シャープ) 実際どういうふうにしてオープンソースを使って商品を開発したかについてお話 したいと思います。ザウルスではLinuxやそのうえのデーモン部分、Qtという半分 オープンソースのGUI、その他のアプリケーションで半分くらいオープンソースの ソフトを使いました。JAVAはSUNの最新のものを載せています。 Linuxの特徴は自由なカスタマイズが上げられOSベンダの意向に合わせる必要が無 いということが一番大きいと思います。某M社のものを使うと、どれも同じような 端末になってしまい悔しい思いをします。せっかく最新の液晶を持っているのに、 自分たちが作ったものがいち早く使えないということがあります。これがLinuxな ら使うことができます。 LinuxはUNIXベースなのでリソースを多く使います。メモリやCPUの使い方に手を入 れて組込み用にしています。コミュニティの活性化のためにGUIのツールをPC-Linux と同じQtをプラットフォームとして採用することでその流れを作ることを考えました。 商品用プラットフォームとして品質保証がありませんが、これは日本企業の得意分 野です。品質レベル向上をしないと商品にならないのでこれが一番大変で、数多く のテストを行いました。最後はメーカーの責任ですから、誰にもなすりつけられま せん。また、オープン化するための作業と対応が馬鹿になりません。 開発環境も、商品を作ると言うとベンダが開発をさせてくれと依頼があったりして、 Cygwinを使ったものなど色々できつつあります。 私達は、ニーズの高まりと創出、オープンソース開発者による投稿、公開情報と ソフトウェア資産の蓄積、用途の広がりと新しい需要の創出、それが再びニーズ の創出となり、これがぐるぐる回ると開発者やユーザの増加、ソフトウェアの増 加・改善が行われると考えます。 宿口 法的面はどのようにされましたか。 清原 これはけっこうもめました。GPLの辛さは外よりも中を説得するのが大変でした。 新しいことは分からないことが多いので、最初はディストリビュータ(リネオ) と組んで行いました。また法律部門にも行ってもらいました。しかしオープンに なってないものでも訴訟になることもあるので恐れることはないと思います。 宿口 製造責任というポリシーでやられているということですね。 ではTOPPERSプロジェクトについてお話を聞きたいと思います。 若林(豊橋技術科学大学) ITRON仕様OSを作ってまいます。やり始めて3年目でようやく回ってきたという 印象です。コードの品質などは痛いところをつかれています。私達は大学の研 究室でやっておりますので、自分たちが使っておもしろいものを作っていると いう、企業ではできない立場で取り組めています。しかし学生なのでそればか りもできないのでコミュニティにも助けていただきたいと思います。モチベー ションは自分が楽しいと思えるからで、義務感でやるとモチベーションは下が ると思います。 宿口 お金のことはどう考えますか。 若林 大学の先生は職員なので給料がもらえるが、自分は学生なので授業料を払った うえでソースも公開し、労働力を提供し、何をもらえるかというと学位と言わ れて終わりです。しかし実際には生活費なんかもかかっているわけで、今は 経産省などから援助もありますが、もっと企業の方にも助けていただきたいと 思います。 石川(SRA) ザウルスのように動いているものを見せてもらったほうが、議題に対する解答 としてできると言える印象が強いです。私は製品を開発しているわけではない です。適用できるかどうかはお客さん次第となります。「フリーソフトウェア と自由な社会」という本が出ていまして、これでストールマンの考えを知るこ とが出来ます。エピソードを紹介します。元々はソースはみんなで共有するも のでした。使っていたプリンタが紙つまりをするからソースコードを持ってい るところへ行ってソースを見せてくれと言ったら見せてくれませんでした。こ れではプログラマが分断されてしまいこれではダメだと知り、プログラマはも っと協力しあうものであると主張しました。 このSWESTも組込みシステムにおけるオープンな場です。なのでそういった方向 へいくのではないでしょうか。 宿口 オープンソースの夢についてお聞かせください。 エンジニアA オープンソースには夢があると私は思います。しかし、行ってしまったら戻れ ないかもしれないかもしれません。だから躊躇してしまうのかもしれません。 しかし私は行ってしまっていいと思います。Windowsよりはよっぽど明るい未来 があると信じています。 宿口 OS選ぶ時は行ったら引き返せないものではありますね。 小川(名古屋工業研究所) シャープさんへお聞きしたいのですが、ザウルスの初代のときにその上で開発を したいと言ったら、4ヶ月音沙汰がなかったうえ、1万台以上出すようなアプリケ ーションでないと協力できないと言われました。大学で学生に買ってもらうもの なのでそこまでは数を出せないので、諦めました。なぜザウルスOSを公開しても らえなかったのかと感じます。 清原 Linuxを採用しましたが、前のものをどうするかは必ずつきまとう問題です。 社内的には互換ライブラリを用意し特定法人向けに供給しております。なぜか と言いますと、昔のものとの互換性を持たせすぎると、それにしがみついてな かなか新しい環境へ移行してもらえません。こちらとしては徐々に移っていた だきたいと考えております。なぜオープンにしなかったのかは物凄い数の問い 合わせがあります。これは我々がうまい方法を見出せなかったからだと反省し ております。 小川 他の企業でもそうですが、製品がダメになるときにオープンになるものが多く、 あと1年早くオープンにしてくれれば開発に協力できたのにと思うことがありま す。話は変わりますが、コミュニティメンバーのモチベーションの話で、やはり 参加メンバーのモチベーションに関してTOPPERSは低い人がたくさんいます。こ れは経産省から最初からお金が出てるからで、最初からお金がついているから高 まらないのかもしれません。しかし学生のようにお金がないと困る人もいます。 また、プラットフォームが変わったときにそれを移植していけるかどうかや、 ソースコードの品質についてもオープンソースを公的機関へ持っていっても評 価できる人がほとんどいません。公的研究機関でもモチベーションの問題はあ りますので、皆さんも税金を払っているのだから、もっとそういった機関には っぱをかけて欲しいと望みます。 中島(早稲田大学) オープンソースに対する感想を述べさせていただきます。オープンソースベー スのソフトウェア開発は、安定したソフト、新しいテクノロジの追従、成果の 共有などがあります。もしgccがなかったら大学でCをかける人がどのくらいい たかという問題もあります。しかしやはり問題はたくさんあります。現状の問 題は複雑なソフトをいかに安価に作るかということで、なぜオープンなのかは 他にいい解決方法がないからではないかと思います。オープンソースの問題点 はライセンス、特許、責任の問題などがです。しかしオープンソースの最も大 きな問題は革新を起こしにくいということではないでしょうか。10年後のOSを オープンソースによる既存のOSの進化として作ることは難しいのではないかと 考えられます。我々大学としてはオープンソースと相反している部分もありま すが、仮想マシンを用いたアプローチを考えています。仮想マシンモニタのう えでLinuxなどを動かし、付加価値コンポーネントからLinuxを制御し、信頼性 やセキュリティ、安定性の強化を行うことを考えています。 なぜこのような話かといいますと、オープンソースを進化させるのは難しいの ではと思うからです。コミュニティは全然違う新しいもの持っていっても、こ れを取り入れにくいと思います。アカデミックコミュニティとは乖離していま す。いいアイデアや新しい要求があるのに対応できておりません。こういった 技術的なサポートは複雑化に対応する有効な解決法だと思います。共有するこ とに効果がある場合はオープンソースは有効であると言えます。 宿口 基本的にはコラボレーションなんでしょうか。 中島 オープンソースの考え方はそうだと思います。研究結果などを、ソースを公開 することで誰でも実証でき、その成果を共有できるのではないかと思います。 共有する必要がない時はオープンソースの意味はないと考えられます。 大西(ヴィッツ) TOPPERSの統合開発環境を作っています。今は国の予算でやっております。成果 はこのあと公開すると利用されるが無償で公開されるということになります。 この後OSを付けて商品となって出ると、実際にボードがないなどOS自体のサポー トができるかということが悩ましいです。。TOPPERSの場合使う人は多いのですが、 開発する人が少ないと考えます。ザウルスの場合は開発をする人が多いから先ほど のモデルでうまく回ると思うがTOPPERSはまだ少ないので問題と考えます。なぜ コミュニティが少ないのかはやはりモチベーションかと思います。 中島 TOPPERSのかたに質問ですが、大学から見ると組込みをやりたい人は多いわけです が、ミドルウェアなどが充実しておらず、本来やりたいこととのギャップがまだ 多いからではないでしょうか。 大西 まさにその通りだと思います。実際にまだあまり商品に出ていないこともあります。 ここ1年くらいですから、今後増えてくるだろうと思います。 中島 そうなるとミドルウェアは結局クローズドになるから、結局大学で使えるかという と疑問があります。やはりミドルウェアがないことがコミュニティを引き離される からだと思います。 大西 それはこちらも思っているところで、ミドルウェアが少ないが、少しずつはあるので 皆さんにも参加してご協力いただきたいと考えています。保守などでビジネスはでき ると考えますので皆さんにもよろしくお願いします。 邑中 補足しますと、確かにファイルシステムもありませんし、ミドルウェアは足りてい ません。そこで企業で使わなくなったものをオープンにするという考え、そのため にかかるお金を国のお金でカバーしようという動きがあります。 コミュニティが育たないのはモチベーションということでしたが、ガリガリやると 引いてしまう人もいますので、生暖かく見守る人も必要だと考えます。 ? ネットワークのプロトコルスタックの開発などをやっておりますが、組込みこそ オープンソースでやるべきではないかと思います。普通のパソコンのアプリケー ションソフトならコピーされて終わりですが、組込みの場合は装置があってよう やくできることなので、単純にコピーということも難しいと考えられます。 宿口 今回の結論として、組込みにオープンソースは使えそうだと思います。ただ色々 問題はあり、共有することが重要です。また責任に関してはシャープさんのよう に製造者責任としてしっかりと責任を持つ必要があります。オープンソースをど う使うかという問題を共有して様々な解決法産まれ、その先に戻りたくないよう な明るい未来があるのではないでしょうか。