A-7 DAS/SWEST共同招待講演 「災害救助からエンタテイメントまで—未来のITロボットの行方—」 【講演者】松原 仁(はこだて未来大学) 【座長】 高田 広章(名古屋大学/豊橋技術科学大学) 【会場規模】200席 【参加人数】130人 【講演内容】 災害救助からエンタテイメントまで—未来のITロボットの行方— 情報処理技術を今後どういったところに活かしていくのか,それについて述べる. 人工知能とロボット工学をやっている.最近の研究テーマは,ロボカップレスキ ューやっておりITやロボット技術を災害救助支援に用いる災害救助支援システム 研究をしている. 最近の主な活動 ・ロボカップ(ロボットワールドカップサッカーの略称) ロボットのサッカー大会を中心とした研究.40カ国4000千人以上の規模.大会の 目標として2050年までに人間ワールドカップチームに勝つことを目指す.活動の 目的としては活動通じてロボット技術やITの進展,産業振興,教育を行う. ・ロボカップジュニア 小学生から高校生までを対象にロボット題材に科学技術教育を行っている.ロボ ット教材などでサッカーロボットの開発などを行うことで教育を行っている.女 の子にもロボットに親しんでもらおうとロボットと人間がいっしょに踊って芸術 を競うダンス部門も設けてある ・ロボカップレスキュー ・災害救助支援システムを研究し始めたきっかけ 阪神淡路大震災では,IT技術がほとんど役に立たなかった.携帯電話は輻輳して 通じず,ロボットは救助の助けにならなかった.かろうじてインターネットによ り,行方不明者や生存に関する情報が伝わったことが数少ないIT技術の貢献であ るが,災害救助や災害救助支援には直接結びつかなかった. ・・survival rate 発見されたひとのうち生存者の数. 生きている人は黄金の72時間以内に救助しなければほぼ助からない.72時間以降 の生存確率は10%以下である.土石流の場合はもっと短く,瓦礫とは違い土砂の 中に生き埋めになっているため数時間である.適切な意思決定の下に的確な救助 活動が行われなければならない. 世界中で大規模災害が定期的に起きており,的確に災害救助を行うために災害救 助支援システムを研究する必要がある.しかし災害救助支援は商売になりにくく 規模が大きいので企業でやりにくい.大学や公的機関で研究する必要がある. 地震の直後は,IT支援ということで自治体にコンピュータをばら撒いてインター ネットで情報を配信する動きが見られるが,数年経つと電源も入れられなくなり 埃をかぶっているのが現状である.災害時には役に立たない,機能しない.役割 分担や担当者が決まっておらず意思決定がとれない.また災害で災害救助支援シ ステム自体がダウンしないように分散しなければならない.ロバスト性. これらのことを考慮して,平時から継続して役立ち利用されるシステムが求めら れる.というのも災害救助支援システムの,ネットワーク,コンピュータは孤立 しており,年数度テストされるだけでほとんど使用されていない.災害時には役 に立たない.想定が不十分なシステムであるため,システムのダウンがおきた. 緊急時の意思決定がなされていない,などの問題があるため. そこでロボカップを通じて得られた様々な技術を,実世界への適用を行う一つの 例として災害救助への適用を目的とするロボカップレスキューを立ち上げた. ・インフラストラクチャ 地震が起きたときのための備えで,国際救助用のチップを設計することを考えて いる.万引き防止用のタグ等に情報を入れておき,様々なものに埋め込んでおく. 例えばタグを埋め込んだ携帯端末の位置から所持者の場所を特定し,救助に役立 てる. ・シミュレーション 災害シミュレータ GIS(地理情報)データから街モデルを構築し,地震などのシミュレータ上にの せて,災害が起きた場合は,どの地域が燃えやすいかなどの検証や,医者や,消 防隊,救助隊などのエージェントをどう動かせば被害を最小に抑えられるかなど, 災害時の意思決定に役立てるプロジェクトを行っている.避難訓練に役立てるの が主な目的で,普段からの住民の意識作りに役立てる. モデルによっては国や土地によって当てはまらない場合もある.シミュレーショ ンにより火事のおきやすい位置の特定や,その結果を都市計画に利用する.道路 渋滞,都市火災などさまざまな災害モデルを作成しプラグインとして提供する. 群衆行動モデルが欲しい.どういう状況でパニックが起きるのか,パニック時に はどう行動するのか検証したい. ・リアルワールドインターフェイス シミュレータを災害時に利用することを考えている.数時間後の被害状況の想定 を行い救助活動における意思決定に役立てる.シミュレータに地震が起きた現在 のデータを入力として与えていく.いろんなセンサをガス計器など様々な場所に ばら撒きそのデータを利用する.インフラストラクチャと関連する. ・分散シミュレーション方式 ロバスト性や膨大な計算量のための負荷を考え分散でシミュレーションを行う. ・地理情報システム(GIS) シミュレーションの基礎となるシステムで,カーナビの国際標準として候補に挙 げられているDiMSISを用いている. GIS情報には建築年代,建築様式,家族構成,エージェントはどんなことができ るかなどの情報が含まれる.この情報に基づいてさまざまな災害シミュレーショ ンする.ある場所で火災が発生し場合,自治体が持っているGIS情報を重ね,災 害弱者がいる場所には優先的に救助隊を送るなど意思決定に用いる. ロボカップレスキューはこれらの技術を競うために競技会である.ある場所で地 震が起きた場合,その被害を最小に抑えるようにプログラム同士を競わせる.ま た災害のジオラマで救助活動を行うことで,ロボット同士を競わせる. 実績としてはロボカップレスキューに出ているロボットが9・11のテロ現場に 駆り出され,テレビカメラを積んだロボットの映像が現場で非常に役に立った. 最初に言ったように,災害時に機能しないといったことがないように,平時から 利用できるコンテンツが必要で非常に重要である.函館のように観光情報をPDA を利用して表示するシステムを作っており,災害時には表示画面を避難所などの 情報を表示するようになっている.このモデルではGIS情報が共有できているう まい例である. 【質疑応答】 Q : 災害シミュレーションは,どのくらいの規模まで行えているのか? A : 計算量が非常に膨大で,シミュレーションでうまくいっているのは千人 程度である.分散機能を高めることで1万,10万でも行えるように研究し ている. Q : ネックとなっているのは計算量なのか通信のオーバヘッドなのか? A : 両方ネックである.計算したこと扱うデータが膨大である. Q : 災害時に重要なのは,センシング技術が重要であると思うが,災害情報を どう収集するのか? A : 一つに気球を飛ばして,鳥瞰図をテレビカメラで撮ってその情報を意思決 定者に渡すという方法などがある.岐阜県では,携帯電話を住民に渡して, 避難所に誘導したり,住民からの情報用いてどう被害状況を構築するかと いった実験が行われている. Q : 民間会社ではどういった形でこのプロジェクトに貢献しているのか,なに か例はないか? A : キャリア系の会社などが参加しており,携帯電話やPDAを災害救助システ ムに取り入れようとしている.