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セッションs1-b
テーマ:アミューズメント業界における組込システム
講師:伊藤 慎治(システムアイ)
日時:2022/9/1 19:48~21:00
参加人数:9+オフライン参加者数12名(終了時)
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アミューズメント業界における組込システムの事情について面白おかしく紹介
自己紹介
・システムアイ代表
・1人自営で、組込み開発の事務所を経営している
・SWESTには3年に初参加し、以降今年含めて4回連続参加している
・組込ファームウェア開発が業務内容にあり、今回のテーマ(アミューズメント)に関係
・他の業務内容としては、基板の設計や実装、PCアプリケーションの作成、FPGAロジックの設計を担っている
アミューズメント業界の紹介
・名古屋の代表的な産業は自動車とアミューズメント機である
・名古屋でアミューズメント機というとパチンコ・パチスロを指す
・この業界ではパチンコ・パチスロでは専門用語「遊技機」や「P業界」という
・大手パチンコメーカーも全国17社の内、10社が愛知県に本社がある
参加者に質問、パチンコ・スロットをやったことがありますか?(オンラインのみ記述)
・現役:1
・以前はやっていた(週一以上):1
・以前はやっていた(月数回):3
・やったことがない:2
・お年を召した方は当然やっていた、若い方はいなかったというアンケート結果になった
・今パチンコやっている人は少ない事が確認できた
パチンコ歴
・1993年からパチンコを打ち始め、朝一の開店に並ぶ・パチンコ雑誌を読み漁るほどはまった
・1998年に飽きたのと、スキーの資金確保のためパチンコを打つのをやめた
パチンコ開発歴
・1999年に入社4か月で社内の受注案件として液晶表示プロジェクトに投入された
・Z80アセンブラで開発(小学生からMSXで遊んでいたのでZ80マシン語やVDPについて知見があった)
・初年度で3度開発後、2004年に退職するまで、パチンコの開発に関わることはなかった
・2004年、パチンコ液晶開発を軸にソフト受託開発として独立した
・2007年、パチンコの大きな案件開発のためにシステムアイ開設して、フリーランス1人と派遣会社から3人の人材を確保した
・2011年までにパチンコ11機種とスロット1種の開発に関わった
パチンコ業界の構造
・パチンコメーカーがメイン基板ソフトウェア開発会社に委託、部品メーカーに企画を持って行き、開発と製造をしてもらう
・そして部品メーカーは開発会社に委託し、開発会社はさらに下請け開発者に委託する
・基本的な立場的は 下請け開発者 < 開発会社 < 部品メーカー < パチンコメーカー・メイン基板ソフトウェア開発会社・パチンコ店 < 保通協 < 警察・公安委員会 となっている
・保通協(一般財団法人保安通信協会)
・型式試験:パチンコメーカーが提出した書類と完成品を検査して規定を満たしているかを検査する
・書類に基づく実射試験とプログラムの検査を行っている
・型式試験に合格しないと販売できない
・検査費用は1機種152万円(パチンコ)・181万円(スロット)、検査期間は2週間~1ヶ月以上
パチンコのシステム構成
・メイン基板(球が入ったかを知らせるセンサ以外、全て出力端子しかない)
・発射制御基板
・入賞口電動チューリップ
・払出制御基板
・メイン基板から演出指示をもらう(演出制御基板)
スロットのシステム構成
・メイン基板(メダルの投入と開始レバー、停止ボタン以外、全て出力端子しかない)
・ホッパー
・メイン基板から演出指示をもらう(演出制御基板)
メイン基板
・パチンコ・スロットの出玉に関わる制御を行う基板
・当たりとはずれの抽選もしている
・型式試験で最も厳しく検査される
・特に入力が制限されている
・パチンコの場合は入賞口と不正防止用の磁気センサしか許されていない
・スロットの場合はメダル投入口と開始レバー、停止ボタンしか許されていない
演出制御基板
・ユーザーに演出を見去るために映像や音声、LEDや可動物の制御を行う
・メイン基板から通信コマンドで演出制御基板は動作する
・90年代までに演出基板からメイン基板に応答を返すこともあったが、当たり抽選に影響を及ぼそうとする悪さが横行して、一方向になった
・メイン基板に対する出力以外に特に制限が無いので、型式試験ではほとんど検査されない
2011までの演出制御基板の構成
・CPUはZ80→三菱M16C→日立H8→ルネサスSHと進化した
・VDP(PCでのGPU)はYAMAHAとAXELLの2社のみが開発している
最近の構成
・VDPがCPUコアを含むすべての機能を統合した
・YAMAHA(GP-3)・AXELL(AG-5) いずれもCPUコアはSH2Aを採用している
・ROMはプログラム・画像・音声の共通になり、SATAで接続されるようになった
・容量は16GB(実質SSD)
・プログラムやよく使う画像はSDRAM(容量:128MB)からリードする
演出制御基板の開発環境
・プログラムは採用した純正コンパイラに合わせてC/C++を使って開発する (C++はほぼ使わない)
・3Dの表現があるとUnityを使用して開発している会社があるらしい(詳細は未確認)
・Ruby(おそらくmRuby)を使用して開発している会社があるらしい(詳細は未確認)
・映像データはAdobe Aftereffects(AE)というビデオ編集ツールで作成している
・YAMAHAとAXELLの2社がAEのデータからVDPのデータに変換できるプラグインを提供している
・LEDの点灯データもAEで作成できている
・音声・モーター制御データはVDP開発ツールで作成している
ここまでのまとめ①
・パチンコ業界の構造
・パチンコ・スロットのシステム構成
・メイン基板概要
・演出制御基板の構成
質問①
・パチンコ雑誌に載っている解析結果は有効(本当)なのか?
・中古で基板を買ってそれを解析するのに制限はない
・メインの基板が当たり判定した後に球が出るまでに長い時間がかかるが、その間は何をしているのか?
・演出が終わるまで球が出るのを待っているだけ
メイン基板の構成
・CPUとIOのみの構成
・入力:入賞口、メダル、開始レバー、停止SW
・出力:払出、入賞口の開放、リール制御、演出制御
メイン基板のCPU
・メイン基板で使用可能なCPUは2社の製品のみ(保通協から指定されている)(セキュリティ対策でCPUが限定されている)
・内蔵ROMが絶対読めないように暗号化などで対策されている
・チップ1つずつに固有のIDが流出対策で書き込まれている
・エルイーテックのV5のセキュリティは破られていない(V1~V4は破られたという事)
メイン基板のCPUスペック
・エルイーテックとジャパン・アイディー2社の共通仕様
・CPUはZ80コア(拡張無し)
・ROM:8192[B]
・RAM:512[B](バッテリーバックアップに対応している)
・抽選用の16bit乱数発生器を搭載している
なぜZ80?
・80年代から使われており、他社の互換品が出ていたから
・最大の理由は保通協がZ80のプログラムしか隅から隅まで検査できないから
・一気に当たりが出たり、出なかったりする等の変なプログラムが作られないために検査の必要がある
メイン基板のプログラム
・ROM8[KB]、RAM512[B]に収める必要がある
・パチンコの場合、演出中は待つだけなのであまり問題にならないが、スロットはリールの滑り制御が必要なのでなかなか大変である
・京都マイクロのPROASM-Ⅱというアセンブラでよく記述される
・リロケータブルリンクが禁止であり、理由は保通協が検査できなくなるため
メイン基板
・基板構成は2層(両面)のみ
・片面実装のみ
・表面実装部品は使用不可
・目視でパターンを追って不正が分かるようにするためこのような実装にする必要がある
ここまでのまとめ②
・メイン基板の構成
・CPU
・メイン基板
質問②:なし
パチンコの演出のサンプル
・Youtubeでパチンコの演出を表示
・動画タイトル「CR大海物語ぶるぶるチェンジ演出→マリンちゃんリーチ|パチンコ試打」
パチンコとスロットそれぞれの流れを振り返り
・パチンコの場合は指導口に入賞した際に抽選が入り、この時点で当たり・はずれは決まっているが、演出基板に変動演出を出して終わるまでメイン基板は待つ
・スロットも開始レバーをONにした時点で抽選され、最後のリールは4コマまで止まるタイミングをずらせるので、抽選結果を変えることはできない
大当たり確率
・大当たり確率1/302等のように公表されている
・抽選結果の状態を持ったりはせず、完全に独立しているので302回抽選しても必ず当たるとは限らない
乱数
・抽選に使う乱数は全て疑似乱数であるため、出てくる順序は常に同じである
・この順序を乱れさせるために外乱が必要になる
・パチンコの場合:入賞タイミング
・スロットの場合:レバーONのタイミング
ここまでのまとめ③
・パチンコ・スロットの遊戯の流れ
・抽選フロー
・大当たりの確率
・乱数
質問③:なし
遠隔操作の噂について
・過去に事務所のPCから任意で当たりを発生できるように改造し、「当たりが出る店」を演出する事件が発生した
・店は営業許可取り消しされ、システムの作成者は逮捕された
遠隔操作の技術的側面
・遠隔操作実現のための要件
・メインCPUプログラムの取得
・セキュリティは非常に強固で、解析するにはチップのパッケージを薬品で溶かしてベアチップを露出し、物理的に観測する必要がある
・販売されたメイン基板の改造が必要
・メイン基板は透明なプラスチックケースで封印(はがすと後が残るシール、ケースのカシメは破壊しないと出せない)されている
・簡素な仕組みのメイン基板であるため、いじるとケース越しから直ぐに改造したことが判明してしまう
・パチンコ台―事務所PC間の配線
・パチンコ・スロット台は1台で完結しているため通信用の信号は存在しない
・事務所のホールコンピューターに接続する外部端子は存在するが、基本的にはパチンコ・スロット台の打ち方の把握のみで、一方向通信しか存在していない
遠隔操作:結論
・遠隔操作は技術的に絶対不可能ではなく、実際に過去に遠隔操作した事件はあった
・しかし、遠隔操作を実現する労力とリターンは全くわりに合わない
質問④:なし
パチンコ業界に関わる半導体メーカー
・採用されれば数機種で使いまわしてくれる関係上ある程度の数が出荷されおいしい話なので、日本の多くの半導体メーカーはパチンコ向けの製品を作っている
・パチンコ業界に関わる半導体メーカーの例
・ルネサス
・パチンコ向けというよりも広く使われるため演出制御マイコンに数多く採用されている
・東芝
・メイン基板のバッファICに数多く使われており、74シリーズの非標準型番のバッファにパチンコ向けの製品がいくつかある
・IT
・標準ロジックステータスレポートに「アミューズメント・デバイス・ファミリー」と明確に記述されている
・オムロン
・「オムロンアミューズメント株式会社」という子会社がパチンコ向けの製品を作っている
・セガ
・ドリームキャスト専用のグラフィックボードをサミーが買い取り、スロット機に採用された
・パチスロ北斗の拳(2003年)
・旭化成
・I2C接続でモーター・LEDドライバを複数接続できるというのが売り
・2020/10月の火災で供給が完全にストップ、WebページではEOL(End of Life)と表示されている
・エプソン
・SIC33という独自アーキテクチャのマイコンがパチンコで結構使われている
市場で発生した事件
・プルルン事件
・外れなのに数字が888で止まってしまうという不具合が発生した
・プルルンの代金は不要とし、次の機種ミニスカポリスをプルルンと同台数を無償で提供することになった
・コピー打法
・ベル等がそろった次のゲームで、開始レバーを手前に引きながらゆっくり上に上げるとまたベルが揃うという不具合が発生した
・開始レバーのコストダウンのためオープンドレイン出力のSWを採用した事により、レバーON信号の立上りが不安定になる
・以前の機種はメインCPUとは別に乱数ICを使用していた
・不安定なレバーON信号がメインCPUと乱数ICに入力されることになる
・メインCPUにはレバーONが伝わるが、乱数ICにはレバーONが伝わらない事がある
・上記現象を意図的に起こすことにより、抽選を実質無効化してしまう
質問⑤
・品質管理はどういったところに気を付けているのか
・デバッグを外部に委託し、ひたすら打ってもらって確認していた
・保険でプルルン事件が起こりえた場合は無理やり当たりではない数字に(例:123)止められるという対策をする
・プルルン事件は事前に分かるのでは?
・デバッグが足りてない、もしくは打っただけではわからなかったかもしれない
・保通協の試験があるのにプルルン事件は発生してしまったのか
・保通協は規格通りの抽選か、当たりの発生確率かなどをメインで見ており、プルルン事件は演出側の不具合だったのでしっかり検査されていなかったのではないかと考えられる
・裏物とかゴトについて、対策とか裏話について
・不正対策は保通協と封印で対策している
・あやしい噂が回らなきゃ警察は来ない
・お店の方が不正については気を付けるしかない
・昔噂になったパチスロの「タイマー」は実際にあるのでしょうか?
・スロットは演出制御から当たりに関してメインに教えていたので、スロットは不正があったこともあるらしい
・まとめ
・アミューズメント機の仕組みの解説
・アミューズメント機開発においての制限とその理由について
・アミューズメント機の遠隔操作にまつわる実例や実現方法とデメリットについて
・実際に起きた事件とその顛末
以上