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セッション:s4b
テーマ:Work with Robot
講師: 中川友紀子 氏(株式会社アールティ)
日時:2021/09/03 13:40~14:50
参加人数:15名(終了時)
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<会社紹介>
株式会社アールティ
・アールティ(RT) = ロボットテクノロジー
・資本金:1億円,従業員数:36名

ミッション
・Life with Robot
ロボットのいる暮らしを実現する(最終目標).
・Work with Robot
ロボットと働く未来を実現する(中期目標).

事業
・教育事業
ロボットのいる世界を最終目標としている.
しかし,その世界はエンジニアがいないと達成できない.
まずは,エンジニアを育てるところからスタートした.
・AIソリューション
ある程度教育を終えて,エンジニアの活躍できる場を設けるという意味で進出した.
・Foodly
食品工場向けのロボットを開発している.


<マイクロマウス大会とロボットについて>
マイクロマウス大会とは?
もともとはマイコンとAIを実世界に適用しよう・その技術を高めようと考えられた大会である.
AIの部分,メカの部分,マイコンの部分毎年新たな技術が登場して面白い大会となっている.
競技は2パターン存在する.
・マイクロマウス競技:迷路解析ロボットの競技
・ロボットレース競技:ライントレースロボットの競技
※ロボットはオリジナルであることが推奨される.
 一部キットでも良いが,ソフトはオリジナルである必要がある.
  ロボットはCPUを搭載し,内燃機関を使わなければどのような形式でも認められる.

公益財団法人ニューテクノロジー振興財団が運営している.
迷路を解いて,ゴールまでのタイムを競うタイムアタック競技である.
中学生から80歳まで様々な年齢層のエンジニアに参加してもらっている.
→ エンジニアの生涯教育を目指すことが目的である.

競技種別
マイクロマウス競技:迷路を解析して,5回以内にゴールにたどり着けるようにAI等を使ったロボットを作る.
クラシックサイズ競技
・1区画18*18cmの16*16区画の迷路を解析する.
マイクロマウス競技
・1区画9*9cmの16*16区画,または32*32区画の迷路を解析する.
ロボトレース競技
マイクロマウスでは敷居が高いため,初歩的なものとして用意された.
現在は参加者のスキル向上により,複雑なカーブでも高速に動作させるような,高度なものになっている.
回路や組込みといった幅広い知識を身に付けることが可能である.

参加のメリット
ルールが毎年同じであるため,去年のロボットを改良して臨める.
つまり,去年の自分を超えるというエンジニアの自己研鑽に繋げる.

ロボットのサイズ感
マイクロマウス競技:小さな手のひらサイズのロボットがほとんどである(こちらはエキスパート向けで敷居が高い).
クラシック競技:様々なサイズのロボットがいて,サイズの大きなものも多い(こちらは初心者も大歓迎である).

(投票:マイクロマウスというロボット競技を知っているか?)
・知っていた:5人
・知らない:5人
・参加している・していた:1人

ビデオ鑑賞
優勝者が作成したライントレースロボットの走行様子を確認した.
・大会は3分間の間で3回走ることが可能である.1回目でロボットがコースを覚え,2,3回目でどれだけスピードを出せるかを勝負する.
・コースは60m以内で作成されていて,優勝者は10秒程の時間でライントレースするロボットを用意してくる.
マイクロマウス競技の様子も確認した.
壁にぶつからず高速で迷路を駆け回るロボットの様子が紹介された.
事前にロボットに迷路を覚えさせ,その後でゴールまでどれだけ早くたどり着けるかを測る2つのフェーズが存在する.
ビデオでは後者のフェーズの様子を鑑賞した.


<マイクロマウス大会の社員教育の活用について>
(投票:社内に義務教育ともいえる社員全員の共通言語になる組込みの教育プログラムがある)
・組込み担当だけがやる:50%
・技術系だけがやる:10%
・その他:40%

アールティでの事例
・マイクロマウス大会を共通言語として教育に導入している.
経理の人など技術に大きく関係しない人でも全員やる.具体的な教育内容は以下である.
・ロボットの仕組みや作り方の流れ
・はんだ付け等の基礎技術
・ロボットに使われる技術
・ロボット競技会の参加(他社との交流)
目的としては,実際に作ったことのある営業人材を育成することで,お客様に説得力を持たせ有意に営業を行うことができる.
また,社員同士での共通認識を持っておくことで,技術部門とそれ以外の部門の知識の乖離が小さくなる.
・ロボットを好きになってもらう.
ロボットを組み立てて,動けば楽しい
→ このような感覚を全社員が持つことで,ロボットのいる生活の一助となるような企業運営が可能となる.

アールティが目指す社員
・基礎知識を磨き,社内研修でブラッシュアップ,自己研鑽で+αの知識を習得することである.
・さらに,専門分野の得意分野を作り,他の社員の先生になる.
他の社員が教えて基礎を作り,さらなるステップの技術を身に付け,教えてもらっていた人が教える側になるようにする.
・以上を実現するために,エンジニアの午前中は忙しくない限り全員研修を行っている.

アールティが手がける範囲(ロボット屋は何でも屋にならなければならない)
・AIマシンビジョン開発
・AIソフト開発
・制御基板開発
・メカ設計
・コンサルティング
・システムアップ
・保守運用
・エンジニア育成

アールティの社員
作りたいを作れるに変えられるエンジニアが多い.
企画・設計・実装 すべてやるため,PM能力からAI, IoT等の技術も身に付ける.

モデル社員の一例
・マイクロマウスでの知識があるから,広報でも技術を理解しながら活躍できる.
ロボトレースをやっていたりするので,エンジニアとも対等に話をすることができる.
・3年目でもPMとして食品関係ロボットの開発に携われる.
・新卒時にハードの知識なしでも,マイクロマウスでの経験で知識の幅が広がる.
もともとの知識 + 組込みの知識をつけることでできる幅がぐっと広がる.

技術ブログによって,伝える力を磨く.
マイクロマウスを社内の共通言語にする.
管理部も全員参加でマイクロマウスに参加している.

マイクロマウスを教材とする理由
回路,メカ,ソフト,AIこれらがバランスよく詰まっている.
社員研修では以下のものが作られる.
・回路基板
・メカの設計図
・アウトプットのブログ作成
 → エンジニア同士のコミュニケーションの促進にもつながる.
大会会場等でも積極的に交流することによって,色々な人からの情報を受け取りスキルアップしている.
マイクロマウスに加えて,大学教授を招いての原理的な部分や先端技術の基礎研修も行われている.

アールティのロボット教材
1 実践で使えるロボット:自社エンジニアを育てた教材を大学教員とブラッシュアップしているため,選ばれる要因になっている.
2 基礎技術の習得を重視
3 オープンソース:学習者のブーストアップになるようにという思いが込められている.

教育事業
教材用の組込み機器から人型ロボットまで様々なロボットを開発している.
教科書等も大学の先生と共著して出版している.
ロボットアームが学会で使われることもある.
NVIDIAや教育機関からの評価ももらっている.

<一旦 質疑応答>
・(大川氏)ネコ型ロボットも作っているのですか?(3枚ほどの前のRT製ロボットのスライドを見て)
→ 大きさ120cmのロボットで,ロボットショップに置いてある

<Work with Robot とスマートファクトリー>
ロボットを開発できるエンジニアの育成
社内教育をある程度達成したところで,ロボットとエンジニア両者の活躍の場を考えるようになった.
製造業に目を付けた.
  → 製造現場はいくらかは自動化されたが,人が作業するところもまだ多い.
  製造業の中でも特に参入の少ない食品に注力することにした.
  ベルトコンベアの終端では人が目視で検査する.このような最後に人が関わる作業をRTではラストワンハンドと名付けた
  ラストワンハンドをロボットに置き換えられないか?ということを行っている.

大企業のスマートファクトリーの全体構想
サプライチェーン・エンジニアリングチェーンで大きな枠組みで語られることが多い.

中小企業のスマートファクトリー
客が注文してきて,工場で作る.
多品種,小ロットを少人数で仕事をこなす.
 → ロボットを用いて自動化できないかを検討する.
スマートファクトリーそのものは直近を見ると必要ない.
しかし,今後の「利益の出ない状況」(人件費の増加)を予防するために重要である.
スマートファクトリーを進めるためのロボット開発のために組込みエンジニアを育成しようという考えを持っている.

食品工場で手のかかる処理
・原料処理
・食品製造・加工
・包装・充填
ベルトコンベヤーや金属探知などのマシンは使うが,ロボットはほとんど使われていない.
だからこそ,現在注目されている分野となっている.

アールティが手がける領域
・中食 → アグリテックで生まれたものを加工する.
     グローバルマーケット,人手不足で確実なニーズ,参入の敷居が高い,これら3点からベンチャー向けの事業と判断して参入した.
(アグリテック:農業漁業等の一次産業)

協働ロボット向けのAI*Roboticsで技術的に必要なこと
AIは身体知,暗黙知,形式知の3つを持つ.
・形式知 : パソコンでできることがほとんどである(トイワールド).
・暗黙知 : 言葉で表しにくいようなパターンマッチ.
・身体知 : 組込みの近い部分でしくみから作ることができる.小型化にも挑戦可能.
難しいところ : マシンビジョン,やわらかい食材のピック&プレイス
安く簡単に作るためには基礎技術が必要となる.

一般的な食品工場ラインとロボットの使い方
食品が流れてくるベルトコンベアの手前にロボットを配置.ロボットや人が一品ずつ盛り付けしていく.
盛り付けスタッフと盛り付けロボットが交互に配置される.
ロボットが人の間に挟まるとソーシャルディスタンスが保たれてよいという時代背景もある.

(ロボットの動画視聴)
食品工場ラインロボット:からあげ等のおかずを盛り付けるロボットの様子を動画で確認した.
頭部のカメラで食材を認知して,食材を盛り付ける.
キャスターで持ち運びも楽,UIもWEBエンジニアが作る.
ロボット自体のUI・UXの話に発展したりもする.
現時点では,キャベツなどの量を決めて盛り付けるのは苦手である.
寿司製造ロボット:海苔巻きを自動で作れるロボットの様子を動画で確認した.
大量生産するときは巻き芯を海苔に巻く.
生産性の向上に繋がる.


(投票:社内にマイクロマウスを広めたいか?)
・「広めたい」,もしくは,「広めたいが社内の空気が無理」が大多数であった.

<質疑応答>
質問内容はチャットの原文をそのまま記している.

・(高橋氏)アールティさんに入社したからにはの義務教育ですごいなと思うのですが,
心折れたり思い通りの成果を挙げられない方も出てくるのではと思います.
そういった方への対応とかモチベーションを引きつける方策とか工夫されていることがあったら教えてほしいです.
→ メンターがいる.周りのみんなが教える雰囲気があり,高すぎる目標は押し付けない.時間を掛けながら勉強しても良いという雰囲気づくりをしている.

・(高橋氏)聞き逃しかもしれないですけど,把持対象の教師データは(エンドユーザ的には)どうやって設定をするんでしょうか?
→ 会社の方でやるので,教師データはエンドユーザーは作らない.

・(及川氏)Foodlyを導入する企業は,費用対効果をどう考えているんでしょう?
 (Foodlyの単価 + 現地設置&調整費) < (ロボットの耐用年数を考慮した)人件費
なイメージですか?
→ 16時間労働,1人雇うと年間400万, 2人だと年間800万それを考えるとロボットの方が安くなる.

・(大川氏)マイクロマウスの大会の動画は、すごい速さで動いていて、「自分では無理」と思ってしまいそうです。
初心者は、どのように段階的にマイクロマウスをつくるのでしょうか?
→ 最初はキットを作るところから始める.そのキットを改良してオリジナルにもっていく.
 優勝者が回路図などを公表している場合も多い.みんなでよりよくしていこう,去年の自分に勝ちたいというモチベーションの人が多い.
 アールティが公開しているピーコもあるので,それを改造していくのも一手段である.
 チャンピオンクラスのロボットでも10年近く完成にかかっているため,理想を作り上げるには長い時間がかかる.

・(及川氏)製造業だと,モーターと制御用のドライバをセットで買ってきて組み込むことが多いが,アールティではどうなのか?
→ モーターなどは買ってくるが,制御陽のプログラムは全てアールティ社内で書いている.基礎を学べるマイクロマウスは有用である.

・(司会の方)マイクロマウスはコロナ対応どうしたのか?
→ オンライン開催にした.迷路公開して,各地でビデオ撮影して送ってもらう形式をとっている.

・(大川氏)マイクロマウスの制御周期の長さはどのくらか?
→ 1ms以下,エンコーダの限界までやっている人も多い.

・(大川氏)小さいメカ,大きいメカどちらが難しい?
→ どちらも難しい.小さいものは部品が,大きいものは基盤の配置に工夫がいるため,一概にどちらとは言えない.

・(大川氏)マイクロマウスでのロボットの重さは?
→ 10gくらい1kg,2kgのものもある.参加者のスキルや実現したいところにより様々である.


■ まとめ
マイクロマウスは社員教育に有用である.
これからの工場は「ロボットと働く」を実現することが重要となる.