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セッションs3a
テーマ:髪の毛で音を感じる新しいユーザインタフェース「Ontenna」を
世界中のろう者へ届けるために
講師:本多達也(富士通株式会社)
日時:2017/8/25 10:30-11:40
参加人数:40名程度
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(議事録本文)

* 自己紹介
本多 達也 - 富士通株式会社マーケティング戦略本部 ブランド・デザイン戦略本部
1990年香川県出身.公立はこだて未来大学卒.大学時代にろう者との出会いをきっかけに,手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ,NPOの設立などを行う.
ユーザインターフェースデザイナーとして就職し,プリンタのアイコン等のデザインを行うが,世界中のろう者に音を届けたいという想いから富士通株式会社に入社.
現在は,富士通株式会社マーケティング戦略本部にてOntennaの開発に取り組む.

- 学生時代の作品
Shikakuka - 脳波を使って状態(集中・リラックス・睡眠)を視覚化するデバイス

世界中のろう者に音を届けたい -> 富士通株式会社に入社


* Ontennaの紹介

市販の音伝達装置の課題点
記号的で音源の特徴が分からないUI (どういうリズムか,どういうパターンなのか)
装着方法が腕に負担をかけてしまうUI

Ontennaの特徴
コンセプト:「猫のひげが空気の流れを感じるように,人間の髪が音を感じる」
振動を知覚しやすく,間接的な髪の毛
手話や家事などのとき,腕の負担を軽減する

Ontennaの原理
30dB~90dBの音圧の変化を256段階の光と振動の強さに変換して音の特徴を伝達

- 2つ以上つけることで音の方向も分かるようになる

健聴者にも利用できる
イヤホンを付けている状態(音楽を聴きながら作業する)の人など

髪の毛以外の部分にも
イヤリングとして取り付ける


* Ontennaプロジェクト

** 製品化
デザイナーやエンジニアによってより製品らしく

** プロモーション
PV撮影
キャッチコピー
「あ、音がいた。」(聴覚障がい者のコピーライターが作成)

** メディア掲載
国内メディア
- 雑誌:AXIS・Pen・ブレーンなど
- ウェブ:NewsPicks・TABI LABOなど
- テレビ:TOKYO MXなど
海外メディア
- 雑誌:TrendsWatch 2016 など
- ウェブ:Deccan Chronicle・PCWorldなど
- テレビ:BCCなど

** 様々な賞を受賞
- グッドデザイン賞ベスト100
特別賞:未来づくり賞(富士通初)
- 第21回AMDアワード 新人賞
- World OMOSIROI Award
- Forbes 30 under 30 Asia 2017
- Design Intelligence Award 2017

** 展示会
- 富士通フォーラム(東京・名古屋・大阪)
- CEATEC
- グッドデザイン賞受賞展
- 超福祉展
- J-POP SUMMIT
- 任天堂
- 株主総会

** インタビュー調査
目的:ターゲットユーザの明確化と新たなOntennaの使用シーンの発見

** 平塚ろう学校でのWS
目的:Ontennaを用いて集団的価値を創造できるかを検証する
感想:音の強弱を感じることができた, リズムやパターンを感じることができた, 演奏することが楽しかった, 耳タイプも良いと思った


* 2種類のモデル
Simple Model
光のON/OFF機能,感度調整機能
Smart Model
Bluetoothモジュール搭載(スマホと連携)
課題点:数十msの遅延が生じる, 大きくなってしまう, 1対1の通信しか対応していない

※現在,Zigbeeモデルを検討中
遅延が少ない,1対多の通信に対応

* 映画にも利用 (TAP)
役者のセリフは字幕として文字にできるが,音楽やダンスの音は文字にできない
-> Ontennaを利用してろう者でも振動でリズムを感じることができるように

* TED×Hanedaでろう者とドラムパフォーマンス



【質問】
Q. 音の振動だけで,音の高低や「こんにちは」といった言葉を感じることはできるようになるのか.
A. 現在は音の大きさのみ.以前,フリクエンシーを検知するアクチュエータを取り付けたが,振動がとても細かくなってしまったので難しいかも.
高機能化していくと補聴器や人工内耳に近づくが,Ontennaはもっとシンプルに使ってほしい(敷居が低いもの,アクセサリーのように)

Q. (感想) 健聴者でも使える場面が多々ありそうだと感じた.耳が聞こえづらくなった老人用にも利用出来そう.
A. 実際に東京医療センターで研究も行っている.高齢者にも利用できるようなデバイスにしたい.

Q. 髪の毛の長さや付ける場所で感じ方が変わるのか.
A. 髪の長さ,髪型で感じ方は人それぞれ異なる.いろんな髪型の人に付けてもらってフィードバックをもらった.
感じ方は異なるが,ユーザ自身が「この振動はこの音だ」と学習して音を認知していた.

Q. 具体的にどのように実装しているのか.
A. Arduinoが組み込まれている.

Q. 導入例はあるのか.
A. 現在,事業部がついていないため,長期貸出ができないのが現状.なるだけ早くリリースできるように頑張る.

Q. プログラマブルにできるようにすると良いと思うが (ユーザがカスタマイズできるように).
A. オートゲイン機能をつけたが,微妙だった.居酒屋などうるさい場所ではうるさいと表現するのが良いのではと感じた.
 一方で,工場ラインでは異常音のみ拾うようにする機能もほしい.今後ユーザが使いやすいようなデバイスを提供できるようにしたい.
-> Q. Ontennaハッカソンのようなイベントがあればおもしろそう
A. とても良いアイディアだと思う.やってみたいが会社の都合上,どこまで自由にできるか微妙.
また,技術者としてはいいと思うが,一般ユーザはある程度出来上がっているものを使いたいことが多いため,どのような形にしていくかは今後検討が必要.

Q. どのようにOntennaで商売するのか
A. どのようにビジネスにするかは課題ではあるが,「Innovated by FUJITSU」という経済特区のような形で打ち出していく方針.
これによって富士通として宣伝・広報の効果があればうれしい.

Q. 人間の耳のように,指向性が欲しいという要求が出た場合,どのようにしていくのか
A. Ontennaは無指向性のマイクを使用しているが,2つ以上のOntennaを装着すれば頭全体で,ある意味で指向性をもつことは可能.
人間の耳くらい繊細にするとなるとハードウェアを変えるといった必要が出てくるので,
大衆化・一般化するというより「自分だけのOntenna」のようにパーソナルなデバイスを利用できるような未来にしていきたいと考えている.

■まとめ
髪の毛で音を感じることができるデバイス「Ontenna」について,開発に至る経緯や苦労話を語っていただいた.
実際にろう者の方が使用されている動画を交えながら,Ontennaがどのようなデバイスなのかを説明されていた.
また,メディアや展示会等にも取り上げられ,数々の賞も受賞されており,聴講者の多くが,Ontennaが興味をもっているようであった.
講演後も多くの聴講者が実際にOntennaを触ってみて,「音を感じる」場面が見られた.


以上.