********************************************************************** SWEST17基調講演 タイトル:ウェアラブルシステム・デバイス・応用の現状とこれから 講師:塚本 昌彦(神戸大学大学院工学研究科電気電子工学専攻) 日時:2015/8/27 13:20~14:50 参加人数:約180名 ********************************************************************** ■ 概要 ここ数年、ウェアラブルコンピューティングが立ち上がりの様相 を示しており、実世界におけるさまざまなサービスを包含する今 後の急激な市場形成が見込まれるようになってきた。特にApple Watchを中心とする腕時計型デバイスは、話題性から実用性へ とシフトしつつあり、またGoogle Glassを中心とするめがね型 デバイスも、アプリケーションや社会問題などに関わる模索が続 く中、いよいよ産業用での立ち上がりが期待されつつある。本講 演では、システム技術を中心にこれらのウェアラブルコンピュー ティングのシステム、デバイス、応用について現状を分析し、今 後の展開を予測する。 * ウェアラブルコンピューティング市場予測 2015年以降急激に市場が拡大すると予想されていたが少し外れた。 Apple Watchの不調も要因と考えられる。 外れたといってもシフトするだけで必ず市場は広がる。 * コンピュータの作る架空の空間は巨大になりすぎて人類に弊害を与えている!! ここ20年のコンピューターの発展は間違った方向に進んでいる。 家にこもって使うものでなく、外にいるときに実世界の活動時に身に着けて使うものであるべき。 * ウェアラブルコンピューティング = コンピュータを装着して利用する * ウェアラブルは実はすごく昔からある - 1968 Ivan SutherlandのHMD - 1998 IBM Vision Pad - 日本IBMが試作(98年) - 技術面より話題性 - 2001.3 塚本がウェアラブルの実践生活を始める(1号機) - 2003 鈴鹿8耐プロジェクト しかし、なかなかウェアラブルは立ち上がらなかった。 * ウェアラブルが急にやってきた • Apple Watchをはじめとするウォッチ群 • Google Glassをはじめとするグラス群 • その他のさまざまなウェアラブル 要因 • コンピュータの小型化、軽量化、高性能化 • ユビキタス通信環境の浸透 • スマホの浸透 • 極小部品、バッテリの進化(スマホの大画面化に伴う小型画面デバイスの需要発生) • ウェアラブルの本質的なポテンシャル • 装着による活動時の利用性 • 常時装着による常時利用可能性 現在、米国がリード、欧州、韓国、台湾、中国が追従。日本も急に動き出した。 * それは当然のこと • コンピュータが小さくなって、しょっちゅう使うようになれば 人に装着するのは当然 • 懐中時計から腕時計へ(600年ぐらい前) • 手持ちメガネから鼻かけメガネへ(600年ぐらい前) • 来るのはちょっと遅かった • 頑張ればもっと早くに日本から立ち上げられたのに、ここ15年日本はだめだった。 • これだけ遅れれば欧米で始められるのは当然。 • 韓国、台湾が猛追。日本はだいぶ遅れて追随。 * 今からでも追い越せる • みんなでウェアラブルをやろう!! • 業務用HMDから普及していく可能性が高い • それともウォッチ系のデバイスが普及か • あるいはそれ以外のウェアラブルの可能性もある * 最近の話題といえばウォッチ!! - Apple Watch - 2015.4発売。価格は4.28万円~218万円。 - 四角ディスプレイ、ぽっちゃりデザイン、デザインバリエーション - 生体センサ - S1プロセッサ(専用のプロセッサ) - Watch Kit(開発環境) 内容や価格は噂どおりだった。 同機能で4.28万円~218万円という価格の開きは異例。 ファッションとしての意気込みはわかるがやりすぎ感あり。 話題性があるので中国等の金持ちに売れるんだろう。 共同購入しようという話もある。レンタルビジネスもありかもしれない。 3つの柱(時間、コミュニケーション、ヘルスケア)の最初の二つがやや意外。 「時間」も「コミュニケーション」も当たり前。 日本でも同時発売されるのが驚き。 「年末になる」という噂と「そんなに遅くならない」という噂があった。 アプリ(インタフェース)の作りこみにも驚いた。 ズーミングやアニメーション、状況に応じたデジタルクラウンの使い分けなどiPhoneが出てきたときの印象と似ている。 ** 売れ行きは芳しくない? 7/21のAppleの決算発表でも詳細は報告されなかった。 Appleが予想した三分の一程度の台数しか売れなかかったと言われている。 しかし、従来のウェアラブルデバイスと比べれば圧倒的な台数を売り上げている。 ** Apple Watchはなぜ不調? キラーアプリケーションの不在 使いにくさ 女性からの不評 →メーカもユーザももっと経験が必要 最初は使いにくいかもしれないがユーザーももう少し使用期間を伸ばして慣れていく必要がある。 ** Android Wear アプリ共通化 主な機能 - 通知 - 音声入力 - 健康管理 なぜかアジア勢が多数見受けられる。 Qualcomm Snapdragon 400 (高性能、低消費電力) Sony SmartWatch 3はGPS, Wi-Fiを搭載!→スマホとの連携を前提としない単独利用を流行のひとつ メタリックなデザインが増えてファッショ性が向上してきている。 インテルやカシオなども参入予定。カシオはバッテリーの向上に注目。 ** Tizen Watch ** リストバンド型活動量計 2012年ごろから多数販売 Microsoft Band, Fitbit 新機種3つ,Jawbone UP3, UP Move ** ウォッチ、リストバンドの問題 ウォッチ - プラットフォーム争い:Apple vs Android Wear、その他のプラットフォームはどこまで頑張れるか? - アプリケーションの模索:本命は通知?健康?あるいはそのほかの何か? - バッテリの持ち:一週間は持ってほしい。 - 充電方法:いつかは無線給電? - センサのバリエーション:血圧?血糖値?血中酸素濃度? リストバンド - どれも同じ。差別化が難しい。 - 各社プラットフォームがまちまち:データの継続性、共有の問題 - 故障、破損、紛失 - ウォッチに食われつつある? →まだまだ面白いものがでてくる! ** ウォッチのこれから スマホなしでの単独利用!: Wi-Fi、GPS、SIMスロットの搭載(積載部品の増加) 低消費電力化 : 反射型ディスプレイ?eインク?DSP?専用プロセッサ?リコンフィギャラブル? 全体的な機能充実 : 時間の使い方をよくする機能,ライフログとしての機能・性能,情報ツールとしての操作方法 デザインの洗練 : 当面クラッシックウォッチデザインの方向、いずれスリムデザインへ,ディスプレイは丸型?あるいは大型化?曲面、フレキシブル? 新しい応用 : - 街角サービス連携:案内、スランプラリー等(NFCが必要) - 新しい遊び:鬼ごっこ?ウォッチアプリはどんどん増える。 - 業務利用も進む。時間管理、コミュニケーション、健康管理 リストバンドも含めた共通プラットフォームが必要 : マルチウォッチ、特にウォッチとリストバンドの併用, TPOに応じて付け替え 来年は日本企業がもっとやり始めるのではないだろうか。 * もうひとつの話題はめがね ** Google Glass 小型単眼シースルーHMD。1500ドル これまでのHMDより小型軽量で高性能、高機能。 2012.4 発表、2013.2 開発者向け発売、2014.4 一般販売(米国のみ)、日本では販売されなかった。 バッテリの持ちが悪い→プロトタイピング、利用実験向き 2015.1 販売中止。業務用を除き子会社NestのTony Fadellの監督下に *** Google Glassで露呈した問題点 社会問題, 発熱, バッテリ, 見た目, アプリケーション, 骨電動スピーカ, 光学系のミラー塗装, アプリ開発ベンダの撤退, プロセッサ(TI OMAP4)供給 *** 新型Google Glassの噂 ・プリズム大型化 ・Atomの採用 ・バッテリライフ改善 ・発熱低減 ・パフォーマンス向上 ・純正外付けバッテリー *** 別途民生用Google Glass 2が出てくるのでは? 業務用はGoogle本体で推進し、Fadellは別途民生用Glassを開発しているのでは? 業務用Google Glass 2は近々発表される? 高性能高機能、バッテリ容量増強? 業務に必要な機能を充実させて大型化? 民生用Google Glass 2はいずれ別途発表される?年末~来年のGoogle IO? カメラはあきらめない?取り外し or カバー +録画ランプ?ユーザの同意、注意(Dropcamのノウハウ) 家電連携? プロセッサはAtom?光学系は?Himax? Kopin? AR機能の重視?ハンドジェスチャ?視線入力?生体センサ? デザインの一新?小型化? バッテリの強化? ** HoloLens(Microsoft) HMDはODGのもの? ** 日本企業の最近のHMD 富士通、日立、東芝などが業務用に注力。BtoBで拡大予定。 ** その他の眼鏡型デバイス ウェアラブルカメラ, メガネの三城, JINS MEME, Instabeat, DSP&リプルエフェクト →もっと色々出てくるだろう。 ** HMD、ウェアラブルカメラの問題 ** めがねのこれから 近々業務用Google Glass 2が出てくる? 再び大騒ぎになる。業務用途に特化した高機能・高性能デザイン。大型化? さらに民生用Google Glass 2が出てくる? さらに大騒ぎに。小型でスタイリッシュなデザイン? Microsoft Hololensが出てくる? 複数企業から? 日本企業は産業用のHMDを次々導入する。 日立、東芝、富士通、NEC 成功事例も出てくるのでは… 民生用HMDも出てくる。 エプソンMoverio新バージョン?(年末ぐらい?) ソニー、その他の企業からも? スポーツ系ウェアラブルも登場する。 まずはマラソン? テニスやゴルフでもたちあがってくるかも…。 低消費電力化 プロセッサの最適化:高度な画像処理(ARや画像認識など)が必要、GPU、モーションプロセッサ、視線検出、画像処理によるウェイクもありうるかも。 ディスプレイモジュールの最適化 HMDの利用実験が広がる。 産業用:工場、流通、警備、介護、コンビニ、宅配、レストラン、ステージ、放送、スポーツ、… 民生用:街角情報配信、スタンプラリー、教育、会議、スポーツ * ウォッチ vs メガネ ウォッチのメリット - 手軽につけられる。装着性の高さ? - 技術的なハードルが低い。 - 低コスト - 普通のメガネと競合しない。 メガネのメリット - 視覚情報の常時、大量提示 - 音声入出力もハンズフリーでできる。 もしかしたら相補的かもしれない。 * ウェアラブルデバイスの操作方法について 携帯型入力デバイス  少数キーデバイス、小型ポインティングデバイス、小型キーボード ハンズフリー  首振り、視線、脳波 ジェスチャ 感知型操作(状況認識)  カメラを利用する.  バーコードリーダーやICタグを使う.  その他のセンサを用いる. 入力なしでセンサーによる自動管理で操作を行うのもひとつの答えだが到達できるかわからない。 * その他のウェアラブル 指輪、イヤホン型、、チェストベルト、服型、マフラー型、くつ、ネクタイ、ベルト等 * ウェアラブルの課題とこれから ** 課題 展開シナリオ アプリケーション、サービス バッテリ、充電方法 センシング(正確でなくても利用価値のある値は多い) 装着性:重さ、装着方法、素材 操作方法 社会問題と安全性 ** 応用分野 ヘルスケア スポーツ→二年後にはウェアラブルゲーム機が様々な世代に浸透するだろう 産業(工場、流通、商業、保守作業、警備ほか) 街角(ショッピング、交通) 観光 医療・介護→内視鏡手術におけるHMOの利用 農業 警察・消防(・軍事) エンターテインメント 建築・土木・ドローン 行政(地域活性化・市民サービス・産業誘致ほか) *** 大坂マラソンプロジェクト 塚本先生と○○さんがウェアラブルデバイスを身に着けて参加。 *** ウェアラブルと観光→翻訳 観光客は中国人とタイ人  観光客向けウェアラブルは昔からの鉄板アプリ。実験には向くが実用にはデバイスの普及が必要。 業務用「翻訳」が新たなニーズ!  従業員向け(ショップ、観光施設、ホテル等)  入力は音声、出力はテキスト(HMD) *** ウェアラブルと建設→安全性向上 東京オリンピックで関東は建設ブーム 大阪も変わり目? ウェアラブルで工事の安全性が高められる。    建設機器の運転、建設現場の監督、作業者間コミュニケーション  作業者の体調管理(熱中症等)  入札に有利? *** ウェアラブルとドローン→モニタリング、林業 今非常に注目されている。 ドローンで建造物のモニタリングするときにHMDが役に立つ。 ドローンを操作しながらドローン搭載カメラの映像が見られる。 林業? *** ユビキタス情報ビューア * システム特徴 ウォッチ - どれも似たスペック:1~1.2GHz、512MBメモリ、4GBストレージ - CPUはQualcommが増えてきた(以前はSTやTIが多かった)。活動量計はSTが優勢。 - Apple, Android Wear, Tizen, Android, ほか。RTOSは一部のもの。 - 主な機能は、スマホ連携(Bluetooth)と音声処理、センシング、スリープ処理(スリープ復帰)、充電 めがね - Google Glassスペックがベース - CPUはこれまではTI優勢、これからはIntel? - OSはAndroidが主流 - 主な機能は、画像処理、映像再生・録画・ストリーミング、インターネットアクセス(Wi-Fi) その他のウェアラブル - OSなし - 典型的な機能はセンシングと通信5 →消費電力を考えるとスリープ状態は重要となってくる。やどこまで深くスリープするのかやセンシングを プロセッサを独立させて実装する必要となってくると考えられる。 * システム課題 使い道が決まらないとシステムがチューンできない。 ウォッチはスマホ連携がメイン システムスペックが固まりつつある。 健康(センシング)応用が増えてくると要求は変わる。 メガネはまだまだ使い方はわからない。 現在はカメラ利用がメイン。 今後はAR? いろいろと別プロセッサが必要? 通信プロセッサ? GPU?ARに特化した機能が必要かも モーションプロセッサ? 画像処理プロセッサ?とりあえずバーコード、QRコード、OCR、顔認識 節電は最重要課題 DSP化 vs リアルタイムOS リコンフィガラブル再浮上? * これからの技術 ロケーション情報の活用  インドア、アウトドア コンテキスト推定 分散プログラミング←重要になってくるだろう スマホ連携にみられる二段ロケット方式 ウェラアブル連携:マクロプログラミング 多数デバイス連携:全体プログラミング クラウド連携 同期方式 クラウド上でのビッグデータ解析 切断時動作(disconnected operation) スマホがないときのスマートな動作(スマートプリフェッチ) 接続時の一貫性制御(遅延アップデート) AR 高精度ロケーション技術が必要 GPUが生きてくるかも。黒の表現。 * 塚本研究室の取り組み (時間の都合上詳細については省略) 複数のマイコンの同時制御やスマートウォッチ間の振動による連携など 電飾ダンス服はエンターテイメントとしても広く認知され、EXILEなどでも利用されるようになった。 ■ まとめ これから10年もっと生活が変わる。 次々と新しい「もの」が出てくる。 あっと驚く新しいものを日本企業に作り出してほしい。 * 質疑応答 ** Q.考えるだけで何かしてくれるようなインターフェイスを実現して欲しいが、現状はどうなっているのか。 A.インターフェイスの可能性として重要だが、精度の問題が存在している。現状では思っていることを正確に読み 取るのは難しい。感情を表現する猫耳の登場などが一部で話題となった様に、使える範囲での使用から始めていくべき。 脳波や血流の計測によってクリティカルでない内容からはじめて徐々に展開していくと思われる。 ** Q.今までの経験の中でウェアラブルデバイスが役に立ったとおもう瞬間や用途は何か。 A.14年間つかってきた知見を研究で活かせる。しかし、生活の中では現在時刻がすぐに分かる程度で大きな有用性があるとは感じていない。 ** Q.なぜ14年前にウェアラブルデバイスをやろうと思ったのか。 A.IBMからウェアラブルの時代の到来を感じていた、くるときは急にくると思っていた。 みんなつけると思ったけど案外つけなかった。また、回りに騒がれてしまい外すに外せなくなってしまった。 以上。