********************************************************************** セッション S45-b ワーク テーマ:想定外をなくす 実践安全分析(HAZOP) 2.0 コーディネータ:小川 清(名古屋市工業研究所) 日時:2011/09/02 13:00 〜 15:50 参加人数:10名(開始時)⇒ 9名(終了時) ********************************************************************** (議事録本文) - 13:00 講義開始 - ◆会場の雰囲気 部屋の大きさはそれほど広くはなく、3人掛けの机が2列に配置されている。 講義が始まるまで前まで、参加者の姿は数名程度しか見受けられず、 開始時でも、ある程度の間隔でパラパラとまばらな感じで人が座っている感じで、 参加者は10数名と少人数であった。 しかしながら、少人数ゆえに講師と参加者との距離が近く、 個々の積極的な質問や発言が多く見られた。 また、各参加者には飴やチョコレートといったお菓子が配布され、 会場は非常にフランクな雰囲気で、ワークが進められた。 ◆セッションの主旨 事故などのニュースが報道されると、「それは想定外でした」といった説明が見受けられるが、 その想定外をなくすことを目的としたものがHAZOPの考え方である。 そこで、あり得ないことをどれだけ想定できるかどうかが重要となる。 今回のワークでは、前半で津波、後半で原子力発電所を分析対象として取り上げ、 実際に、参加者にできるだけたくさんの想定外なことを書き出してもらい、 新たな発見をしてもらいたい。 ◆セッションの進め方  ・HAZOPの概要、事前説明 10分  ・演習は前半と後半に分けて2度行う   - 一人HAZOP 20分   - 班HAZOP 45分   - 各班の発表 15分 ◆HAZOPの概要、事前説明 HAZOP(Hazard and Operability Studies)とはIECの国際規格にもなっており、 危険なことを分析し、運用していくときに用いられる手法である。 HAZOPと共に有名な手法として、IECの国際規格であるFMEAとFTAがあり、 それに加えてDesign Reviewという設計審査を合わせて、 レビューに関する4規格と呼ばれている。 その中でもHAZOPは比較的新しい規格であるために、 取り組まれている割合はまだ少ない。 しかし、HAZOPを導入し実際に分析を行ってみると、 FMEAやFTAの手法では見つけられなかった問題点を発見し、 対策を立てたという前例がある。 HAZOPの手法と他の手法との大きな相違点は、 誘導語(guide word)の存在であり、それを元に分析が進められるが、 ブレインストーミング、マインドマップ、なぜなぜ分析といった他の手法にも、 この誘導語を併用でき、効率を上げることができる。 誘導語には全部で11種類が存在するが、11個のうちの10個が 対称の概念により構成される点が誘導語を用いる利点である。 各誘導語の考え方は以下の通りである。 誘導語 分類 外れ表現 無(no) 存在 質または量がない 逆(reverse) 方向 質または量が反対方向 他(other than) 方向 その他の方向 大(more) 量 量的な増大 小(less) 量 量的な減少 類(as well as) 質 質的な増大 部(part of) 質 質的な減少 早(early) 時間 時間が早い 遅(late) 時間 時間が遅い 前(before) 順番 順番が前(事前) 後(after) 順番 順番が後(事後) 誘導語を量や時間といった種類に分類することで、 分析結果の漏れを抑えることができる。 現在は、HAZOPの手法を用いて問題点を洗い出すことが、設計審査の過程で推奨される。 HAZOPは設計者だけでなく、利用者も参加することができるため、 説明責任を果たすという意味で完備している。 今回のセッションでは、前半に津波を、後半では原子力発電所を分析対象として取り上げる。 その対象から、逸脱となる主語の選ぶ方は自由である。 津波の場合の例は、防波堤や避難経路など。 ここで、演習を進める上で、想定外のイメージを膨らませるために、 津波に関する映像が会場で流される。 分析を行うときには、文字で書かれてものではなく、 必ず図や写真を用いることが推奨されている。 題材は設計図、状態遷移図、シーケンス図などでも良いが、 情報が多いと着目する対象物が増えるため、題材は一つの方が良い。 - 13:25 一人HAZOP開始(前半) - ◆一人HAZOP 20分  - ワークで使用するプリント、筆記用具、脳を働かせるためのお菓子が配布され、一人HAZOPが開始  - 前半では津波、後半では原子力発電所を分析対象として、誘導語(guide word)に基づいて   あり得ないこと(想定外のこと)を列挙する  - 思いついたことは、必ず書き出すようにする  - 不安がらずに、まずはどんどん書く  - 間違ったと思ったからといって、消さなくても良い  - 自分の経験に基づいたことから書き出してもいいし、普通に考えれば絶対にあり得ないような妄想に基づいて考えても良い。   それが、論理的に起こりうるかどうかは問題ではなく、想定外なことを網羅できるかどうかが重要  - guide wordの分類が間違っていても、班で集まったときに入れ替えればいいので、気にする必要はない    各自、お菓子を食べながら黙々と作業に打ち込んでいた。 - 13:45 班HAZOP開始(前半) - ◆班HAZOP 45分  - 3〜4人で一つの班を作り、座長・記録係・発表者を決める  - 自己紹介をする  - 一人HAZOPの各自の結果を順次確認する   意見を言う順番は、書き出した数の少ない人から行うと良い  - 出された意見から、同一のもの・類似のものを分類する  - 各想定外を正しく分類し整理する。その時に新たに思いついた場合は、加えても良い  - 少しでも表現が異なるものは各自の思いの違いがある可能性があるので、消さずに残しておく - 各自の意見を一つのシートにまとめる  一人HAZOPとは一変し、各班から笑い声が聞こえるほど和気藹々とした雰囲気であった。 - 14:20 各班の発表開始(前半) - ◆各班の発表(前半)、分析対象は津波 各班で出された想定外なことや原因、対策を分類ごとに、発表。  ★第1班(着目主語は 警報)  - 無(no) →外れ:警報がない            原因:室外方法ではなく、室内放送だった               室外の人には聞こえるが、室内の人に警報が聞こえない            対策:室内・室外を明確にする  - 逆(reverse) →外れ:警報の内容が解放解除の連絡であった            原因:ボタンの押し間違い            対策:警報が発生しないと、解除ボタンが押せない  - 他(other than) →外れ:放送が日本語でなかった            原因:CDの入れ間違い  - 大(more) →外れ:音量が大きすぎて聞こえない、スピーカーの数が多すぎて聞こえない            原因:ボリュームが最大になっていた、ハウリングを起こしていた            対策:ボリュームの値を明確にする、一定の音しか出ない、設置後の検査をする  - 小(less) →外れ:危険度が低かった            原因:波の高さなどの測定の誤り            対策:複数の計測データから判断する  - 類(as well as) →外れ:警報の内容が異なる警報のものだった            原因:前回の設定のままだった            対策:設定内容が明確にわかるようにする  - 部(part of) →外れ:部分的にしか聞こえなかった            原因:電線が切れかかっていた            対策:電線を直す  - 早(early) →外れ:早口だった            原因:焦っていた            対策:録音していたものを流す  - 遅(late) →外れ:遅口だった            原因:口が切れていた、おばあちゃんだった  - 前(before) →外れ:警報前に津波がきた            原因:連絡が遅かった、連絡手段がのろしだった  - 後(after) →外れ:警報の後にブザーが鳴った            原因:おばあちゃんだった  コメント:のろしは電気が切れたときに有効な手段でもある。  ★第2班(着目主語は 警報)  - 無(no) →外れ:鳴らない、聞こえない            原因:壊れている、電気が来ていない、設置していない、耳が聞こえない  - 逆(reverse) →外れ:誤報  - 他(other than) →外れ:違う地域の警報がなった、鳴ったけどすぐ止まった            原因:警報が揺れや水に弱かった  - 大(more) →外れ:警報を出す基準値が高すぎた、音が大きすぎて内容がわからない、               設置の間隔が広い  - 小(less) →外れ:警報を出す基準値が低すぎた、音が小さすぎて内容がわからない  - 類(as well as) →外れ:音が可愛すぎて感じない、日常的な音に近い警報音だった  - 部(part of) →外れ:いくつかある装置の一部しか鳴らなかった  - 早(early) →外れ:鳴るのが早すぎた  - 遅(late) →外れ:鳴るのが遅すぎた  - 前(before) →外れ:気象庁から連絡がない  - 後(after) →外れ:鳴り放しで止まらなかった、避難場所が分からなかった、高台がなかった  コメント:・目の見えない人や、耳の聞こえない人の視点から考えているのが良い。       ・外国の人への対応は、ユニバーサルデザインのように絵で見せるのも有効。  ★第3班(着目主語は 避難経路)  - 無(no) →外れ:避難経路が計画されていない、避難のための道がない            原因:計画を立てていない、道が壊れている、建物が密集している            対策:計画を立てる、避難経路を複数用意する  - 逆(reverse) →外れ:避難経路を逆走する            原因:避難経路の看板がない            対策:看板を立てる  - 他(other than) →外れ:避難経路が高台へ向かっていない  - 大(more) →外れ:避難経路がたくさんある            原因:個人が勝手に決めている  - 小(less) →外れ:避難経路が一つしかない            原因:道がそれしかない、避難経路を一つしか考えていない            対策:道を作る、計画を複数作っておく  - 類(as well as) →外れ:複数の地域が同じ避難経路を選ぶ            原因:個人が勝手に決めている            対策:事前に打ち合わせしておく  - 部(part of) →外れ:避難経路が一部なくなっている            原因:地震によって倒壊した  - 早(early) →外れ:避難経路が短い            原因:良い経路を計画した  - 遅(late) →外れ:避難経路が長い            原因:悪い経路を計画した  コメント:・逃げるときの問題点を取り上げているのが良かった。       ・東北三県の自治体でも、ホームページのトップに避難経路を掲示していたのは数えるほどだった。        しかも、安全地域ではなく危険地域のみを示しているところもあった。 - 14:50 前半パート終了。15:00 まで休憩 - - 15:00 後半パート開始 - ◆事前説明 原子力発電所のように、外れの主語を想像しても分からない場合は、 単位(SI単位系)のつくものを考えると良い。 津波の時と同様に、原子力発電に関する映像が会場に流される。 前半パートとは異なり、はじめに各班で集まり、着目する主語を決定してから 各自で一人HAZOPを開始するように指示。 - 15:15 〜 15:40 一人HAZOP、班HAZOP(後半)。ただし、前半と同様の内容なので省略 - - 15:40 各班の発表開始(後半) - ◆各班の発表(後半)、分析対象は原子力発電所  ★第1班(着目主語は 電源)  - 無(no) →外れ:電源がない            原因:故障            対策:予備電源を常備する、日々の点検  - 逆(reverse) →外れ:原動量が発電量より大きい            原因:電力不足  - 他(other than) →外れ:ブレーカーが落ちている、非常用電源がない、動かない  - 大(more) →外れ:過電流            原因:変電装置の故障  - 小(less) →外れ:電流微弱            原因:変電装置の故障  - 早(early) →外れ:非常用電源が切れるのが早かった、切るのが早かった            原因:判断基準が誤っていた  - 遅(late) →外れ:非常用電源への切り替えが遅かった            原因:切り替えタイミングの指示が遅かった  コメント:電源がないといった常識的にはないだろうといったことも、       実際には起こりうるので想定することは大事である。  ★第2班(着目主語は 放射性物質)  - 無(no) →外れ:放射性物質が入っていなかった、保護材の蓋が外れていなかった            原因:原発ではなかった  - 他(other than) →外れ:ウランではなく、ポルトニウムだった            原因:間違った  - 大(more) →外れ:基準値より多く入れた            原因:間違えた  - 小(less) →外れ:基準値より少なく入れた            原因:間違えた  - 類(as well as) →外れ:原料濃度が低かった、高かった            原因:間違えた  - 部(part of) →外れ:部分的に濃度のばらつきがあった            原因:間違えた  コメント:何をどう間違えたのか まで考えるとさらに良い。  ★第3班(着目主語は 電源)  - 無(no) →外れ:電源がない、二次電源もない            原因:電源が壊れた、補助電源を用意していなかった  - 逆(reverse) →外れ:電源のプラスマイナスが逆になっていた            原因:間違えた  - 他(other than) →外れ:直流ではなく、交流だった            原因:間違えた  - 大(more) →外れ:過電流、二次電源の装置が大きすぎた  - 小(less) →外れ:二次電源の装置が小さすぎて、紛失した  - 類(as well as) →外れ:規格が違っていた、水がかかった  - 部(part of) →外れ:ケーブルが抜けてしまった  - 早(early) →外れ:補助電源への切り替えが早い  - 遅(late) →外れ:補助電源への切り替えが遅かった  - 前(before) →外れ:二次電源が壊れている  - 後(after) →外れ:二次電源の作動中に何かが起こった  コメント:人力でどうにかすることはできなかったのでしょうかね。 ◆質疑応答 Q.一つの外れに対して、複数の原因があっても良いのか? A.問題ない。また、逆に一つの原因に対して複数の外れがあっても良い。 Q.一つの題材から、複数の視点から書き出した場合はどうすればいいのか? A.複数の視点の物も別のシートとして、残しておくと良い。 - 15:55 講義終了 - ◆まとめ 今回のワークでは、前半パートでは津波について、後半パートでは原子力発電所を 題材として、一人HAZOP → 班HAZOP → 発表の流れで演習を行い、 実際に想定外なことを書き出してもらった。 参加者は少人数のため、一班3人という構成でしたが、 ベテランの方に各班の座長を務めてもらい、演習を進めることができた。 班での議論では、一人HAZOPであまり書けていない人から順に発表をしてもらった。 あまり書けていない人でも、実際にはいろいろと思いついていることがあるはずなので、 簡単に質問したり、意見から派生するものがあれば補足したりしながら進めるように促した。 また、今までに出なかった想定外の意見がいくつか出されたことも、収穫だった。 以上。