********************************************************************* セッションS2-b チュートリアル テーマ: NEXCESS/QUBE成果報告 講師: 山本雅基(名古屋大学)、久住憲嗣(九州大学) 参加人数: 約25人 ********************************************************************* ○ 発表の概要  NEXCESS,QUBEのどちらも社会人向けの組込み系人材養成プログラム.  NEXCESSは今年の3月31日で終了.QUBEは来年の3月31日で終了. ● NEXCESS 山本氏:  2004年にこのプログラムが始まりました.  世の中を見ると,同年10月1日にIPA/SECが設立された.  このころが,組込みに対して国が支援をしていこうというのが見え始めた時代. (1)概要  NEXCESSの目的は,不足する組込みソフトウェア技術者を養成することや組込みソフト ウェア技術者教育を進歩させること.  実行組織は,当初は名古屋大学の情報連携基盤センターであり,終了時には 情報科学研究科の附属組込みシステム研究センター(NCES)に異動した. (2)現場主義にも教条主義にも陥らない  方針は,現場主義にもならず、教条主義にもならないということ.  企業の社内教育は,現場主義で視野がせまくなりがち.   古い時代のやり方に固執してしまう.→ 先輩の経験以上に進歩しない.  他方,学校の先生方は現場を知らなさすぎる.   浮世離れしたことだけを行う.→ 企業で利用できない.  NEXCESSでは,会社に居た人を採用して,教員と共にプロジェクトを進めた.  さらに,学外のNPO法人や企業や大学などとも協力した. (3)ETSSとの関係  ETSSに準拠して,受講前後のスキルを定義した.  技能(スキル)重視の風潮があるので,講義の時間と演習の時間の割合が 大体1:1になるようにした.  ただし,短期コースの受講だけでスキルが伸びることは無い.  教育効果の計測は,困難な問題である. (4)受講者  当初文科省に提出した予定の倍くらいの修了者.  中小企業の方は教育を受講できるチャンスが少ないので,そういった方々に受講 できる機会を与えるように,特別枠を設けた.  定性的な評価のため,アンケートをとっており,概ね良い評価を得た. (5)波及効果  受講者が社内で育成を行っている.テキストを社内で周知したかの質問に対する 回答を分析したところ2,000人くらい新たに育てられていることが確認できた.  一部教材のダウンロードも行っている.社内の事情に合わせて変更して使用している かを調べたところ,71%が改訂せずにそのまま使用していた. (6)傾向  大学で行う教育であっても専門コースの受講者は少なく,初級コース受講者が多い.  初級技術者を養成するための指導者コースへの評価が高い.  Aさんがあるコースを受講した後,次の年,同じ会社の同じ部署に所属するBさんが 同じコースを受講する傾向がある.すなわち,Aさんが講師として社内で教えるよりも, NEXCESSの専門講師に教えられる方を求める傾向がある. (7)将来  これから大学における社会人の組込み教育は,どこへ向かうべきか.   ・企業との共同研究の中で人材を育成する.   ・研究成果を知らしめる教育コースを開催する   ・教育を専業とする会社などとの共同研究で教育を進歩させる ● QUBE 久住氏: (1) QUBE概要  伝統的に九州では産学官が連携してLSI系の教育や産業振興をしてきた.  平成13年にシステムLSIカレッジを県が立ち上げた.  LSIや組込み系の教育.年間1000人くらいの教育.  基本的には有料だが,通常の民間セミナーの半額程度の費用ですむ.  平成17年からシステムLSI設計人材養成実践プログラム(QUBE).  初級コースはシステムLSIカレッジで実施し, 上級コースは大学で実施.  設計ツールは高価であり,アカデミックライセンスが利用できるので  上級コースは大学で実施する方が費用対効果が高い.  本年度いっぱいで終了.  QUBEの特徴は組込みソフト, LSI設計, コデザインを一貫して実施していることである.  また, 演習中心の講座展開をしている. (2) カリキュラム  3つに大きく分かれる.  ・システムLSI設計技術取得プログラム   システムLSIの設計を最初から最後まで一通り演習で体験できる.   初期の頃は設計から始めてFPGA上で動作させていたが、   現在は要求分析から初めてアーキテクチャ設計まで実施している。  ・先端設計技術習得プログラム   セミナー形式の講座.   ハードウェア系,組込みソフトウェア,コデザイン,マネジメントコース  ・実践設計技術習得プログラム.   初級講座のうちシステムLSIカレッジでは実施していないところを実施。 (3) 受講者  2講座受講して1人修了という申請をしてしまったので,目標をなかなか達成できない.  受講者数のではかなり頑張っている.  コース別・開催地別受講者数:  LSI屋さんよりはソフト屋さんが多いと思うが、ハード屋さんも結構来てくれている.  東京の講義室を借りて実施したときにはかなり受講者数があがった.  出張講義を多数実施しており、県・大学と協力して実施している.  県別の受講者数:  九州内では大分,熊本,佐賀,宮崎で出張講義を実施。  九州外では大阪、名古屋、東京で実施している。  また今年からテレビ会議システムなどを使って遠隔講義を実施している。  アンケート結果:  自らの受講希望が半分以上いた.将来のエンジニアに希望がもてる.  正に今必要な技術を身につけてくれたという人が3分の1くらい. (4) 教育効果の測定  試行錯誤中である.  ETSSはあるが, LSIやコデザインの講義を実施しているので,  スキル項目を列挙するところから実施している。  教育効果の測定はアンケートベースで実施している。  教育ではスキルも大切だが、理解しているかも大切なので、  キーワードについてちゃんと理解しているのか.  スキルについて自分でどう変わったかを聞いている.  ETSSのようなおおざっぱなレベル分けだとほとんど変化が測定できないので、  レベルをさらに詳細化して使用している。  受講者は、平均1段階くらいスキルアップしたと実感している.  業務の都合がいそがしくて修了できないという人もいる.  こういう人が増えない環境作りが重要だと思う。 (5) 受講データの分析  企業別:  九州の企業,中小企業,大企業バランスよく来ている.  初級コースほど,中小企業の人がたくさん来ていて,  上級コースほど,大企業の人が来る傾向にある.  分野別:  ソフト屋に比べてハード屋がすこし少ないくらいで推移している.  LSI屋さんは中小企業にいなので,大企業が多い.  ソフトは中小企業が多い.  高度なソフトウェアエンジニアリング系講座は大企業からの受講が多い. (6) 産学官への効果  QUBEのような活動は産学官それぞれにメリットがあると思う.  産:新人教育.現場でいろんな人にひろめてもらう.  学:教育を通じて企業の人と触れることで,    大学をこう変えていったらいいんじゃないかという指針が得られる.    社会人教育の場で自分の専門を教えることで自分が勉強になる.    研究成果を教材にして皆さんに使ってもらう.  官:地域産業の支援. (7) まとめ.  QUBEは今年度いっぱいで終了.  企業の方向けに発信していくことも重要.  高度なLSI設計カリキュラム.  定量的な評価方法が課題. ○ 質疑応答,コメント ● NEXCESS Q:名古屋大学の一部としてやっているのは,継続的なのか期限付きなのか. A:NCESの職員は共同研究の予算で雇用されており,その予算は毎年あるいは   短期間ごとに申請が必要である.雇用も,予算に同期し,期限付きである.   すなわち,NCESの職員が行う教育は,期限付きである.   企業の皆様のご協力が必要である.   他方,通常の大学教員は,定年まで保障されている. コメント:  初級コースは社内でもやれるけど,コストパフォーマンスから見れば無償のところに 投げた方がいい,というのは精神論でなく,企業とはそういうお金の論理で動くもの.  大学でやるべきことと,民間の教育機関や企業内の機関ですべきことを分けるべき.  例えば,初級のコースは,2,3年目の参加になると有償にするようにしないとこの 構造は永久に変わらないのではないか.  初級など,定着している部分は民間で商業ベースにして,新しい大学の成果の教育を NEXCESSでやった方がいい.  住み分けがないといつまでも初級はなくならないと思う. ● QUBE Q:地域別の講座について,関東方面は現地の機関が要請したのか? A:自分たちが主体的に施している Q:QUBEとしての成果の活用方法は考えられるのか? A:今のところそういう構想はない.   組織同士で仲良くすることは必要.   全部が無料で供給されるのはおかしい.   そういう市場ができればいい. コメント:  教育産業として自立するのがいい.  学内でも教育の成果を反映できるといい.  日本では,教育は無料という考えがある. ○ まとめ 社会人向けの組込み教育について,NEXCESSとQUBEのこれまでの活動内容の紹介や今後 の方針についての議論を行っていた. 以上.