********************************************************************** セッションS3-c チュートリアル 午前2 テーマ:車載LAN動向 講師:藤沢 行雄 氏(ルネサス) 日時:2008/9/5 11:00〜12:30 参加人数:約50名(終了時) ********************************************************************** ■ アジェンダ ○ 自己紹介 ○ 車載LAN動向 ○ CAN ○ LIN ○ FlexRay ○ 標準化の動き ○ AUTOSAR ○ JasPar ○ ルネサステクノロジ車載LANへの取り組み ○○ 自己紹介 ○○ ■ はじめに 株式会社 ルネサステクノロジ所属. 同社には,北京五輪で話題になった上野由岐子投手の所属するハンドボール チームが所属.(場所はルネサス高崎工場) 会場には学生の方もおられるので会社の紹介から始める. ■ 株式会社ルネサステクノロジの紹介 5年前(2003年)に設立した会社. 三菱電機と日立製作所の半導体部門が分離合併し設立された. マイコンをメインとしたビジネスを展開としており,昨日のSSESTの発表に あったライントレースカーに搭載されたマイコンもH8でルネサスの製品である. ■ 事業の概要 ルネサスの売上全体の3割をマイコンが占める. 事業の重点となる3分野としては, ・モバイル ・PC/AV ・自動車 が挙げられ,藤沢氏は自動車の半導体を作る部門に所属. ■ 本日の概要 自動車の中で使われているネットワークの誕生から現在に到るまでを話す. 1,今の車載LAN全般の紹介 2,プロトコルの概要 2-1,CAN 2-2,LIN 2-3,FlexRay 3,各プロトコルの比較 4,標準化の動き(→ 近年,非常に強い嵐が吹き上がれている) 4-1,AUTOSAR 4-2,JasPar 5,ルネサステクノロジの今後の車載LANへのアプローチ ○○ 車載LAN動向 ○○ ■ 走るコンピュータ 自動車には沢山のECUが載っている. ECUの数は,載りやすさ・環境配慮・安全性を求めると共に増えていく. 集中制御から分散制御へという流れ. ■ LEXUSの自動車で見るECUの数 LEXUSの中でも最高グレードであるLEXUS LS 460. 同車内には制御系のECUだけで約100個も搭載されている.(ナビ関係は含まず) これらのECUを繋ぐネットワークのプロトコルとしてCAN,Bean,LIN,AVC-LANの 4つが採用されている. 尚,GS 350,SC 430とグレードが下がるにつれてECUの数は減少する. ■ 車載LANの誕生(1)〜各社独自規格の時代〜 1980年の初頭から始まった. 国内の発端はトヨタのボディ用のネットワークで,光ファイバーを利用したマスター スレーブネットワークだった. 1980年後半には,本格的にアチラコチラから参戦. 各社独自のプロトコルを採用した為,多くのプロトコルあった. <例> クライスラー:C2D,J185VPW マツダ :PALMNET GM :J185VPW 日産 :DUETTE,IVMS など この時に,一番割を食ったのは電装メーカと半導体屋だった. ■ 車載LANの誕生(2)〜各社独自規格から標準規格へ〜 1990年代に入り,各社の独自規格から標準規格への流れが加速した. 藤沢氏がこの時代に車載LANの分野に入る. 1990年に起きたこととしては,徹底的な各プロトコルの比較.どこの プロトコルが生き残りそうか?徹底的にベンチマークしていた. 結果として,各プロトコルの中で最もバランスが良く取れていたCANが生き残り, 今日の自動車でも,使われているプロトコルの7割前後はCANである. ■ 車載LANの歩み〜コンソーシアムの設立・標準化の広がり〜 自動車の中のECUをPowertrain・Chassis,Safety,Infotainment,Body, Body Slaveでグループ分けしてみた時,現状ではほとんどの グループがCANを利用している. この流れが2000年から続いているが,最近ではECUの数が多くなってきた為, いくつかのグループはCANのスペックでは限界値にきており,FlexRayなどの より高速なプロトコルへの移行がされつつある. ■ 今後の車載LAN構成予想〜高速化・低コスト化など用途に特化したLANが並存〜 今後の予想としては以下の通りと予想される. Powertrain :FlexRay Chassis :FlexRay Safety :ASRB Infotainment :MOST Body :CAN,一部はLIN ■ さらなる高機能化のためにX-by-wire技術 従来のECU-ECUとういう考え方をX-by-wireはシステムの構成から考える. メカの部分を従来の作り方からやめて,機械制御から電気制御へ. 通常,自動車は物理的にハンドルからステアへ繋がっている. FlexRayはここの物理的に切ること,繋げないことを目的としている. → メカの根本的な変化を目指した技術. <例> ハンドルをきった角度を検知 → モータを回してタイヤをきる ○○ CAN ○○ ■ CAN(Controller Area Network) BOSCHが提唱したCSMA/CDを利用しているシリアル通信プロトコルである. <CANの特徴> ・マルチマスタ ・システムの柔軟性 ・送信の優先順位付け ・通信速度の設定 ・データ要求が可能 ・高いエラー検出,通知,リカバリー機能 → 特に高いエラー検出が非常に良い!! ■ CANの規格 トランスポート層,データリンク層,物理層を採用している. ネットワーク層は含まれない. 尚,物理層においては低速規格と高速規格に合わせて2種類ある. ■ CANのトポロジー CANはバス型のモノが多い ただ,スター型を採用している社もある. リング型はほぼ無い. ■ バストポロジー CANのバストポロジーは終端抵抗を入れて作る方法が最も一般的である. 情報は2本のワイヤによる差分信号で行っており,優先度の低い状態をレセシブ, 高い状態をドミナントと呼ぶ. 伝送路としては40m程度まで通信が可能であり,自動車内を張り巡らせるには 十分な長さである. ■ CAN通信のポイント アービトレーション アービトレーションとは,同時に2つ以上のユニットが送信を開始した際に, 双方にアービトレーションフィールドの1bit単位での比較から優先順位付けを 行い,送信をするユニットを1つに絞ることである. ■ CAN通信のポイント メッセージ監視 メッセージ監視とは,非受信ノードもデータの監視を行っていること. つまり,全ノードが同じデータを受け取らないと次の送信に移らない仕組み である. これにより「信頼度の高い通信ができる.」ここが重要である. ○○ LIN ○○ ■ LIN LINは,ドアスイッチ,ドアミラーなどの人間が操作するような箇所には CANは完全なオーバースペックなことから,コストを意識して安くしたいという 目的の元に利用されている. <コストの削減例> ・RS232Cにて使われているUARTを利用 → 会社によってはUARTを応用してソフトウェアにて具現化 ・CANはワイヤを2本使用 → LINは1本 ・CANマイコンは水晶発振子or水晶発信器が必要 → LINマイコンは抵抗発振子で利用できる など ■ LINプロトコルとは? LINプロトコルはシングルマスタ方式である. 伝送路は,廉価なシングルワイヤ方式を採用している. 通信コントローラには,機能拡張型のUARTを採用,ボーレートはMAX:20Kbps (CANの場合はMAX:1Mbps)である. ○○ FlexRay ○○ ■ FlexRay FlexRayはX-by-wireが構築できる通信システムである. X-by-wire技術は(前述の通り)メカを根本から変える為,高い信頼性を 必要とすることからネットワークを完全2重化している. 尚,通信方式は2種類のTDMA方式を採用し,ボーレートは10MBpsである. AUTOSAR及びJasParではFlexRayを推奨中である. ■ FlexRayコンソージアムのメンバ コンソージアムの参加メンバは,BMWやボッシュなどの欧州の有名メンバ及び 国内のメンバが主である. ■ なぜFlexRayなのか? CANは,好きな時に送信するという非同期型通信システムのため,衝突が発生した 際(=100%のトラフィック状態)に優先度の低いノードの送信が全くできない という問題あり.このような問題を解決するために,通信システム構築時に 平均トラフィックが30%以下にするといった対策を実施している. FlexRayならば,TDMA方式なので,100%のトラフィック設定をすることが 可能である.100%にしたとしても,CANで発生した衝突もなければ,送信が できないということも発生しない. ■ データ信号 CANと同じく差動信号による駆動だが,Voltage BM(ベースになる信号)が Voltage BPよりで高いか低いかでデータ信号のハイとローが決まる. <データ信号とBP,BM> Voltage BP > Voltate BM → ハイ Voltage BP < Voltate BM → ロー ■ FlexRayノード構成 <構成要素> ・FlexRay MCU → FlexRayコントローラ内蔵のMCU ・CC → CommunicationControllerの略.FlexRay MCUに内蔵. BDとのデータのやり取りを行う. ・BD → Bus Driverの略.CC-伝送路間のトランシーバ. CC-伝送路間で物理的信号⇔論理的信号の変換を行う. ・BG → Bus Guardianの略.信頼性向上の為の監視用デバイス.2種類ある. ・NLBS → Node Local Bus Guardianの略.2種類あるBGの1つ. CCとBDの監視をし,BDが伝送路へデータを送信すべきタイミングを チェックする. ・CBS → Central Bus Guardianの略.2種類あるBGの1つ. 各ノードから伝送路へ送信されるデータのタイミングをチェックする. Active Star形式の時のみ利用可能. ■ FlexRayのトポロジー FlexRayには3種類のトポロジーがある. 特にactive star networkは物理的には1対1の通信だが,擬似的に1対他の 通信を可能にしている. <FlexRayのトポロジー> ・linear passive bus ・active star ・passive star ○○ 標準化の動き ○○ ■ 複雑化するシステムに対応する為の自動車メーカーの課題 自動車メーカーの課題としてある ・ソフトウェア開発費用の増大を回避 ・電子システム品質と信頼性の向上 の為,標準化活動・協業活動の流れが強まっている. ○○ AUTOSAR ○○ ■ AUTOSAR(AUTomotive Open System ARchitecture) AUTOSARとは自動車のソフトウェア,電子アーキテクチャの共通化を目指した コンソーシアムの事.(→グローバルな標準化団体) 欧州で進んでおり,メンバにはトヨタ,BOSCH等が所属している. 尚,ルネサスはこの企画に際に関わる. ■ AUTOSAR ECUアーキテクチャ 通信については,CAN,LIN,FlexRay,MOSTへ対応している. <ECUアーキテクチャ> ・AUTOSAR Software platform ・RTE(Run time environment) ・BSW(Basic SoftWare) ・MCAL(Micro Controller Abstraction Layer) ■ AUTOSAR規格を使用するメリット 従来のOSEK/VDXは縛りが弱く,プラットフォームの移植性が悪い. その点,AUTOSERはOSEK/VDXよりも細かい単位で構成されている為に移植性が良い. ○○ JasPar ○○ ■ JasPar JasParは日本国内の車載技術の標準仕様を作ることを目的しており,AUTOSERと 同様の指針である. ただし,JasParはFlexRayにフォーカスしてスタート.現在は,Flexray以外の 標準技術活動に拡大中. ■ JasParワーキンググループ活動状況 元々10個のタスクフォームが,今年から16個になった. これはFlexRayの活動の活性化による影響がある. ■ JasParのメンバ JasParの協賛企業は48社である. 主要メンバとしてはトヨタや日産,デンソーなどが参加している. ○○ ルネサステクノロジ車載LANへの取り組み ○○ ■ ルネサステクノロジ車載LNへの取り組み 標準化団体(CAN,KIN,JasPar,Autosar)への積極的な参加をしている. また,ホームページにて要素技術の紹介も行っている.(CANなど) ○○ 質疑応答 ○○ <質問者1> ルネサスの作る製品において,民生品と自動車向けのスペックの違いは あるのか? <回答> 自動車用と民生品としてのマイコンを別の設計にすると設計コストがかかる ので基本的には同じ設計になっている.製造プロセスの一番最後の工程のみ 変えて対応している場合が多い. <質問者2> FlexRayのTDMAで混んできたら? <回答> 制限を掛けないとCANと同じになってしまう. 制限を掛けることが前提. <質問者3> MOSTは,今後CANに変わるものになるのか? <回答> 自動車メーカ次第である.すでに欧州の高級車ではすでに使用している. MOSTはCANと比較して高速な通信ができるためビットストリームデータと コマンドデータの両方を流すことができる.MOSTが普及すれば当然 CANはいらなくなる方向である. <質問者4> セントラルバスガーディアンとローカルバスガーディアンがあるが, セントラルバスガーディアンには専用にノードがあるイメージでよいのか? <回答> Yes.専用ノードがあります.アクテイブスターカプラというECUに内蔵 します.ローカルバスガーディアンはECUごとに入れる.