基調講演2 安浦寛人(九州大学大学院 システム情報科学研究科教授) An Embedded System on a Chip 〜システムLSI時代の設計技術〜 組込みシステムのソリューションの一つである、システムLSIに ついて、組込み分野での応用を踏まえて、九州大学大学院教授の 安浦寛人先生にご講演頂きました。 まず最初にシステムLSIとは何ぞや、という説明がありました。 特に、「作れるもののサイズが作りたいもののサイズを超える」 「”どう作るか”から”何を作るか”へ」というのが、システム LSIの最大の問題点である旨のお話がありました。 以下、内容は3つのセクションに分かれて、詳細な説明がありま したので、それについて簡単なまとめを記します。 1「何を作るか?」  システムLSIは情報化社会の基盤技術であり、社会の安定を支 える技術体系であるべき。また、21世紀の日本の基幹産業を育成 するものである。社会基盤としての情報技術を考える場合、Cost とPerformanceはもちろん、Quality(品質)、Reliability(信頼性)、 Security and Stability(安全性と安定性)を確立させなければ ならない。そして、この情報技術を用いた、新しい社会システム を検討すべきである。 2「システムLSI設計技術の動向と課題」  「微細化、高速化への対応」「大規模化、複雑化への対応」「 Time to Marketへの対応」を3つの軸として考える。 「微細化、高速化への対応」では、プロセス/デバイス技術と システム設計技術との融合・協調設計が重要である。安浦研究室 では、プロセスのばらつき(歩留まり)を考慮したシステム設計手 法を提案している。 「大規模化、複雑化への対応」については、IPコアを用いた設計 技術やハードウェア/ソフトウェア協調設計(※)、ロジックと メモリの混載などが重要である。特にハードウェア/ソフトウェア の分割や、それぞれの合成(自動生成)等が現在研究されており、 一部実用化もさている。 「Time to Marketへの対応」としては、IPコアの再利用、システム LSI向けのEDA技術が必要である。これについては演算ビット幅可変 のマイクロプロセッサと、それに対応したコンパイラによる協調 設計環境を提案しており、実際に作成した環境をWWWにて公開して いる。 3「システムLSI普及のために」  東京大学大規模集積システム設計教育研究センター(VDEC)を 利用した、システムLSI設計教育を行っている。セルライブラリの 開発や、年間10件程度(安浦研究室)のLSIの試作を行っている。 また九州大学システムLSI研究センター構想も持ちあがっている。 以上のような内容であっという間に1時間の講演時間が経過して しまいました。特に1「何を作るか?」では、集積回路のチップ コストの算出式を提案され、これを元にシステムLSIが使える領域 について解説がありました。非常にコスト制約が厳しい組込み システムにおいて、システムLSIを利用を検討する際の良い指針に なるのではないかと思います。 そして最後に、システムLSI(および組込みシステム)の健全な社会 への普及を目指して、小中学生を対象とした「情報技術の原理教育 のための教材開発」を九州大学と(財)九州システム情報技術研究所 で進めているというお話がありました。 システムLSIと組込みシステムには、非常に密接な関係があり、 分野によってはシステムLSIがないと商品が存在し得ないという 状況が、昨今生まれつつあります。このような状況の中、組込み システムの設計、開発に関わる者として、非常に興味深い基調講演 となりました。 (※)この場合の協調設計(コ・デザイン)という言葉はLSI設計者    にとってのコ・デザインであり、ソフトウェア設計者の考える    コ・デザインとは異なる、という議論がSWEST内でありました。