=========================================================================== A-7 DAS/SWEST共同招待講演「移動体電話の開発」 【講演者】菰田元喜(NECネットワークス) 【座長】 寺井秀一(立命館大学) 【会場規模】300席 【参加人数】240名 =========================================================================== 【講演内容】 ◎携帯電話の市場動向  携帯電話加入者推移は1990年の40万人を皮切りに年々増え続けており、 2002年現在で7000万人を突破している。しかし、前月に対する伸び率と いう点では、入社・入学シーズンの 3,4月を除き、減少傾向にある。そ のため、携帯電話の開発は 3,4月に合わせて開発されることが多い。  ネットワーク接続契約者数推移は携帯電話からのネットワーク接続の 契約者は現在までに5500万人加入して利用しており、年々増加している。 ただし、こちらも前月に対する伸び率という点では減少傾向に転じている。  システム別利用者推移は携帯電話のシステム別加入者はPDC利用者を中 心にW-CDMAへの移行が急速に進み、2006年頃にはPDC利用者とW-CDMA利用 者の数が同数程度になると見られている。  移動電話端末のトレンドは1972年に自動車電話が開始され、そのころは 1〜5W とかなりの消費電力が要求されていた。1993年に携帯電話サービス が始まるとデジタル化、小型化による高集積化、リチウムイオンバッテリ の登場などにより、消費電力も下がり、それに伴い待受、通話時間も上が った。  データ速度のトレンドは携帯電話の通信速度はPDCは9.6Kbpsであったが、 現在のW-CDMAでは上り64Kbps下り 384Kbpsでの通信を行う事が可能で、今 後はさらにあがると見込まれている。  モバイルマルチメディアとしての携帯電話は、音楽DL・動画クリッピン グ・テレビ電話・ナビゲーション・ゲームといった方面で利用されはじめ ている。 ◎携帯電話開発に求められるもの  携帯電話を開発するにあたって、小型・軽量化という要求と、高性能・ 操作性向上という要求、長待受時間化・長通話時間化という要求はできる だけ満たされなければならない。そのための手法は電池の大容量化(高エ ネルギー密度化)と大規模なものを小型化(高集積密度化)するという方 法がある。つまり、部品は小さく高密度実装し、筐体の低比重高強度化す ることが開発には求められるのである。  小型化にあたって重要となる携帯電話の重量の一例としては、電池パッ ク16%、メカ部品42%、電気部品42%となっておる。ただし、電池パック の占める比重は現状での改善はむずかしく、メカと電気のそれぞれが開発 過程において努力して重量軽減している。   LSIの高集積化にあたって、キーデバイスとなるものは、現在のデジタ ルではRF/IF 統合LSI とDSP などで、デジタルLSI の高集積化+低消費電 力化を図っている。 ◎携帯電話の構成  携帯電話は大きく分けて、高周波数、ベースバンドアナログ部、ベース バンドデジタル部の3つで構成されている。 ◎アナログベースバンド機能概要  受信電解強度測定用、周波数トラッキング用DAC 、パワーマネージメン ト、 VOICEコーデックなどを行うのがアナログベースバンド機能である。 そのうち、パワーマネージメントでは、受信回路用電源・発信回路用電源 ・送信回路用電源・制御用電源そして電池を管理している。 ◎デジタルベースバンド機能概要  受信、送信のデータに関する処理を行っている機能であり。受信部は受 信データを復調し、デ・スクランブル、デ・インターリーブ、 BCH符号誤 り訂正・ CRC誤り検出、受信品質監視を行っている。送信部はその逆で BCH・CRC生成、インターリーブ、スクランブル処理、送信フォーマット生 成を行っている。 ◎アプリケーション処理  携帯電話のアプリケーション処理は大きくわけて以下のようになっている。   ・ユーザーインターフェース(ブラウザ、メーラー、JAVA、FEP)   ・プロトコルスタック(TCP/IP、SSL)   ・ミドルウェア(スピーチコーデック、JPEGデコーダ/エンコーダ、    MPEG4デコーダ/エンコーダ、音声認識、2D/3Dグラフィックス)  これらの処理は CPU、 DSP、ハードのそれぞれに最適な分担することが 必要になる。 CPUは一般的にデジタル信号処理に最適ではなく、PSを含め た処理時間の保証が難しいという特徴から、ブラウザ、メーラー、JAVA、FEP、 TCP/IP、SSL 、 2D/3Dグラフィックス、JPEGデコーダ/エンコーダの処理を 行なう。 DSPはデジタル信号処理向きで、システムの仕様変更に柔軟に対応 可能であり、消費電力が比較的少ないため、スピーチコーデック、ノイズ キャンセラー、画像認識、JPEGデコーダ/エンコーダ、MPEG4デコーダ/エン コーダ、 AAC/MP3デコーダ/エンコーダ、2D/3Dグラフィックスの処理を行な う。専用ハードウェアで実現する場合、システムの仕様変更への対応が難しく、 規模がかなり大きくなる可能性もあるが、仕様FIXすれば消費電力は少ないた め、2D/3Dグラフィック、JAVA VM、VIDEOプロセッシング(カメラのキャプチ ャ等)、JPEGデコーダ/エンコーダ、 MPEG4デコーダ/エンコーダなどを行な う。なお、JPEGデコーダ/エンコーダや MPEG4デコーダ/エンコーダはメモリ が大量に必要なので、電力消費、コスト等の関係から、どれ( CPU、DSP、専 用ハードウェア)で処理すればよいかを最適に選択する。 ◎ソフトウェア構造  ソフトウェア構成は現在の1CPU向けの構成から2CPU向けの構成に変わってき ており、今後のW-CDMAは2CPU化する可能性もある。 ◎携帯電話メモリ ・メモリの用途  携帯電話のメモリを利用するデータは大きく分けて以下の3つとなる。   ・固定データ …フォント、辞書、アイコン、着メロ   ・不揮発データ…ID情報、装置パラメータ、調整データ、電話帳、通話履歴、           音声メモ、ブラウザキャッシュ、Javaファイル、スクラッチ           パッド   ・揮発データ … SSL、プロトコル ・メモリを適材適所に使う  携帯電話上のメモリは用途、消費電力、容量等を考慮し、以下のような種類 が使われている メモリ種類 | 容量(bit) | 消費電力 | コスト | 備考 ------------------------------------------------------------------------- NOR型FlashROM | 16〜64M | ○ | △ | プログラム・データ用 ------------------------------------------------------------------------- 多重NOR型FlashROM | 32〜128M | ○ | ○ | プログラム・データ用 ------------------------------------------------------------------------- NAND型FlashROM | 64〜512M | ○ | ◎ | データ用 ------------------------------------------------------------------------- SRAM | 4〜16M | ○ | × | バックアップデータ用 ------------------------------------------------------------------------- ローパワーSDRAM | 64〜256M | △ | ○ | リフレッシュ回路必要 | | | | スタンバイ電流大 ------------------------------------------------------------------------- psRAM | 16〜64M | △ | △ | スタンバイ電流大 ◎携帯電話電源系統  携帯電話の電源系は負電源、パワーアンプ等で使われており、アナログ回路 用電源とデジタル回路用電源でその特性が異なる。アナログ回路用電源の動作 電圧はダイナミックレンジ・S/N比の観点から2.7V程度が下限である。デジタル 回路用電源の動作電圧は10系統以上の電源を持っているため、消費電力は大きい。 ◎低消費電力化技術  低消費電力を実現する為に考慮される点として、LSIの低消費電力化、LSIコ アの低電圧化、アプリケーション処理の低消費電力化があげられる。  まず、LSIの低消費電力化を行う際は微細プロセスの採用する方法、LSIコア の低電圧化では、入出力端子のクロック周波数低減、間欠動作率アップ、リー ク電流の削減といった方法、アプリケーション処理の低消費電力化ではアルゴ リズム処理の最適化、内部メモリを増やす、データ処理の最適化、 DSPを用い るといった方法を使って低消費電力化を実現している。 ◎LSI設計検証環境   LSI設計検証を行うにあたって、早い段階から、HW設計/SW設計/検証の各チ ームが協調して開発していくことが重要であり、その点を考慮して協調検証環 境構築を行なっている。たとえば、検証チームは LSI入手前にSW/HW協調検証が 開始できることで、SW開発TAT短縮に貢献できる。  また、 LSI設計環境ではC/C++言語のトップダウン設計手法の導入、大型エミ ュレータの導入、シミュレーション速度の高速化が行われている。 ◎LSIロードマップ  携帯電話におけるLSIのロードマップは以下のとおりである。   ・1997,98年:音声認識技術の導入   ・1999年:プロセスが0.25ミクロンに   ・2000年:チップの統合   ・2001年:一部ワンチップになる→2チップ構成に  また現在では、CPU周波数トレンドは96年当時に比べて8倍の速度に、メモリ 容量トレンドは96年当時に比べて24倍程度になっている。 ◎携帯電話の今後  携帯電話の今後は以下のような技術を限定的ではなく導入するのではないか と予想される。   ・表示高精細化   ・スチルカメラ(130万画素?)   ・動画録画機能   ・音楽録音再生   ・BlueTooth   ・指紋認証   ・Wireless LAN(IEEE802.11b/a/g)   ・地上波デジタル放送受信 【質疑応答】 Q(議長): 一年ごとに新しく出る携帯電話ですが、前の年のモデルの技術は       どの程度採用しているか? A(講師): ほとんど使っている。ベースバンドまわりは近年はほとんど変わっ       ておらず、アプリケーションまわりを中心に開発している。特に最       近ではJAVAに関する部分などが開発の中心となっている。 以上