********************************************************************** セッションs1b 分科会 テーマ:開発文章の品質を高める一つの道:人の身になる コーディネータ: 山本 雅基(ASDoQ/名古屋大学),         小林 直子(ASDoQ/エプソンアヴァシス),         藤田 悠 (ASDoQ/長野工業高等専門学校) 日時:2016/8/25 21:00-22:30 参加人数:前半 22人 後半 35人 ********************************************************************** 組込みシステム開発とは,プロセスに従って開発する頭脳労働である.頭脳労働は要求分析,設計などを行う. 頭脳労働のアウトプットは要求仕様書やドキュメントである.要求仕様書の品質とは何か. 良くない電子メールの例の中で,名乗りがない,件名で要件が理解できない,などの問題を指摘する. 模造紙やポストイットで開発文書の課題をグループごとに議論し,発表し合う.(20分程度) 同時進行で行われていたため,いくつかの班の発表を記載する. (議論抜粋)*********************************** その時はよく思っても後で見直すとよくない開発文書だった どのように見積もりしたのかが分からない文書がある 大きな会社だと,設計を行う部署とコーディングを行う部署が分かれていて意思が統一できていない 開発文書を見直した時に,全部書き直した方が良かったことがある 中国の方と仕事する時はいつもと書き方を変える必要があることがある 開発者ごとに記述のポイントが噛み合わない 要求仕様書をC言語ライクで書いてくるところがあり,プログラミングを行うものにしかわからない 穴だらけの仕様書が上がってきて,その仕様書を修正する必要がある場合がある 人によってプログラム書き方が異なり,メンテナンスが大変にもかかわらず,外部仕様ではそのような問題が見えない ドキュメントで伝わらない,それぞれの会社でいろいろな書き方がある 書いたものを誰かが読むときに分からないので書き直すことがあり,余計分からなくなることがある *********************************** 開発文書が理解されない理由: (1)日本語力が足りないからか?→そうではない 実際にはエンジニアとしての能力が足りないことが多く,エンジニアの問題から逃げている エンジニアとして,自分のスキルが高いというプライドがあって,日本語力がないせいにする (2)つまり,ソフトウェア技術力が足りないからである  要求定義者としての能力がないからできない (3)さらに,人の身になる力(人間力の一部)が足りないからである  読む人のことを考えていないから,ドキュメントが書けない 人間は,いい加減.そういう人間を知らないと,人の身になれない. 例えば,プロスペクト理論 質問1:あなたの目の前に,以下の二つの選択肢が提示されたものとする. 選択肢A:100万円が無条件に手に入る. 選択肢B:コインを投げ,表が出たら200万円が手に入るが,裏が出たら何も手に入らない このとき,手を挙げる人がA 20人 B 5人となった. -質問2:あなたは200万円の負債を抱えているものとする. そのとき,同様に以下の二つの選択肢か?提示されたものとする. 選択肢A:無条件で負債が100万円減額され,負債総額か?100万円となる. 選択肢B:コインを投げ,表が出たら支払いが全額免除されるが,裏が出たら負債総額は変わらない. このとき,手を挙げる人がA 19人 B 8人となった. なぜ期待値が同じなのに判断を変えた人がいるのか?  →我々の価値関数は曲がっているから   200万円もらったときと100万円もらった時の満足度は倍でなく,また   少しの損失でも嫌がる傾向がある. つまり,人の身になることは難しい. 文章を読む人が読む目的を考えながら記述するのが良い.(会社の違いなど) ・品質を重視したり,生産性を重視したりと,様々な価値観を持つ会社がある ・どういう年代の方がどういう立場で読むのかということを考える 開発文書の使われ方の違いの議論がそれぞれの班で行われる. (議論抜粋)*********************************** 論理思考力の問題もあり,論文が理解されるかどうかの問題に近い 縦割りで開発文書が行き来することが多い ・UMLはイメージを伝えるのに有用である 日本は機械系の人が多くて,プログラムが全然分からない人が一定数存在する その人たちと意思疎通をするために使用することもある *********************************** 教科書を読み取れず,AIロボと同じような誤答を行う生徒が多い,という新聞記事が紹介されている. "文章を読み取る"ことで印象に残った話についての議論が行われる. (議論抜粋)*********************************** 数ヶ月経つと自分の書いた文章がわからないことがある 口で伝えれば理解されることが,文章として記述することができない お互いに口語で分らないことが,言語化すると分かるようになることがある 言語の武器(明確にするべきところを)を使って,客と合意できるポイントを探していく 伝言ゲームのように90%ずつ伝わり,最終的にあまり伝わっていないことがある *********************************** 人の身になる練習.  ロジャース派カウンセリング:人の身になって話を聞く方法 が紹介される.  お客さんにとって良い話し相手になれれば,その人から仕事が降ってくる  相手の身体動作をコピーすると,仲間だと思ってもらえる. 文章品質特性の (1)完全性,(2)論理性,(3)理解容易性,(4)可読性,(5)規範適合性 のうちの (1)~(4)はソフトウェア技術力と,人の身になる能力の問題である. 日本語力が主に影響を与えるのは,規範適合性だけかもしれない. (1)-(4)の能力を高めるために,ソフトウェア技術力を高めれば良いが,お勉強くさい. でも,人の身になる能力に関心を持てば,お勉強くさくなくソフトウェア技術力を高めることができる. でも,やはり,人の身になりながら要求設計書を書くことは難しい. 人の身になって文書を書く練習を手っ取り早く行うのは,ラブレターを書けば良い.さすがに,一生懸命に,人の身になろうとするはずだろう. ■まとめ 開発文書を書けないということが,日本語力の問題と思われている. でも,それは違う.ソフトウェア技術力と人の身になる能力が不足しているためである.全体的に,お酒を交えつつの議論が多く活発に行われていた. 以上.