********************************************************************** セッション S3-b テーマ:若手技術者教育について語り合おう コーディネータ: アイシン・コムクルーズ株式会社 光嶋裕子、間瀬順一 日時:2014/8/29 10:30〜12:00 参加人数:約20人 ********************************************************************** ■概要  ・アイシン・コムクルーズ株式会社は2007年に設立し、2009年4月から新入 社員を受け入れてきた。  ・内定者教育、新人集合教育、職場OJTを通じて若手技術者の育成を行って いる。  ・現場からの意見を聞いて、育成の仕組みを考えている。  ・まずは、その事例を紹介した後、若手技術者教育について意見を伺いたい。  ・ここでの若手とは入社から5年程度経過し、1人で開発ができる人のレベル をイメージしている。 ■対象  ・技術者の育成に関心がある人  ・部下の育成に悩みを持っている人  ・こだわりの育成をしている人 ■アジェンダ  ・前提  ・話題1「できる技術者は教育で育成できるのか?」(10:50〜)  ・議論1  ・話題2「サポートできることはなに?」(11:20〜)  ・議論2  ・まとめ ■前提  ・2011年度の情報処理推進機構「ソフトウェア産業の実態把握に関する調査」 報告書によると組込みソフトウェア開発の一番の課題は、 「設計品質の向上」であった。  ・また、課題解決には、「技術者のスキル向上」が有効という回答が一番 多かった。 ■アイシン・コムクルーズの状況  ・2007年に設立した8年目となる会社である。  ・新卒採用を行い、若手社員の割合が高い会社である。   - 社員平均年齢 およそ30歳。若手が将来を担っていくといえる。  ・教育専任部署「人財部人財育成グループ」が教育を担当している。  ・2008年「技術教育室」として活動を開始し、2011年に「人財部」へ統合された。  ・現在、メンバーは5人で、技術教育や階層別教育の企画運営を担当している。 ■話題1「できる技術者は教育で育成できるのか?」  ・「できる技術者」とは   - 組込みソフトの設計〜評価を1人でできる   - 後輩の指導を任せられる人   - 決して「スーパーマン」の育成ではない ○アイシン・コムクルーズの具体事例 ・新人研修カリキュラム(1年間)   - 内定者教育(内定式〜入社)    - E-LearningによるC言語文法の学習 - 参考書の配布 = 自動車のしくみやC言語の本   - 新人集合教育(入社から数ヶ月)    - Cプログラミング    - マイコンの基礎勉強    - 設計の演習    - 工場でものづくり実習    - 新入社員研修終了後にETEC受験(研修の成果を見る)   - フォロー研修(配属後、1年目の1,2,3月の毎月1回)    - コーディングルール(MISRA-C)    - 品質概論 ・新人のスキルアップ状況(ETEC試験の結果) ---------------------------------------------------------------------- ※ ETECのグレード   ETECはスコアに応じて、グレードがA〜Cに分けられる。スコア評価は 800点満点   - グレードA(550点前後〜800点)    - 技術要素、開発技術、管理技術に対してエントリレベルに要求される 組込み技術知識を十分に保有している。   - グレードB(400点前後〜550点前後)    - 技術要素、開発技術、管理技術に対してエントリレベルに要求される 組込み技術知識を保有しているが、まだ、不足する部分も見受けられる。   - グレードC(〜400点前後)    - 組込みソフトウェア開発関連業務に要求される組込み技術知識が 不十分であり、実務に携わるには更なる知識が必要。 ----------------------------------------------------------------------   - 新人研修を終えた後のETEC試験結果としては、平均としてグレードBに 到達している。    → 新人集合教育の成果が現れている。   - ただし、入社4,5年経つと向上が小さくなっていく。 ・中堅技術者教育(2〜5年目)の参加が任意の集合研修もある   - 設計演習(新入社員研修よりレベルが上がる)   - 要求分析、要求仕様・レビューの書き方   - マネジメント     ○ここで、皆さんに聞きたいこと  ・こういった集合研修は有効なのか?  ・OFFJT(OFF the Job Training)は有効なのか?  ・効果的なOFFJTとは?  ・OJT(On the Job Training)は有効なのか?  ・効果的なOJTとは? ○人財部が現場で感じていること  ・多くの開発が派生開発であり、アーキテクチャ設計の経験が積みにくく なっている。  ・設計を身に付ける育成方法は何があるのか?  ・既存のソフトを使用して開発していくのだが、担当ソフトのソースコード を理解させることは大変であり、読ませたり理解させたりする必要があるのか? ○議論1(一般論)  ・集合教育、個人に任せる教育、OJTなど最適な育成方法はあるのか?  ・最適な育成方法を持っているのであれば意見を聞きたい。  ・教育は環境などにも依存するので、一意に決まらないという意見も歓迎。  ・今回の議論では、若手の育成に限定する。(キャリアを通じた育成を 考えると解が発散してしまうため)  ※補足   若者は知識面においては向上が見られるが、実際の現場においては十分な 戦力になっていないという現状。 =====================  議論開始(10:50〜) ===================== ○株式会社アトリエ I氏  ・教育はどうしても知識教育にならざるを得ない。  ・知識がある≠仕事ができる    → 評価の仕方を単にテストで行うのはよくないと思う。  ・入社4,5年後の知識力向上の減少については、一人前になりかけてきたころに   改めて用語の意味を教える。意味が分かってこそ大事である。 ○ASDoQ Yさん  ・評価に関していうと、大学と企業が連携して情報教育を行う"enPit"という取り組みを行っている。  ・enPitが目指しているものは、学生の実践力の養成であり、知識だけの 教育を行っても評価はできない。  ・河合塾とリクルートがPROGという社会人の基礎力を計測するテストを行って おり、それを導入している。   →enPitに参加した学生は、行動特性が統計的に優位に高まった。  ・enPitは演習中心の教育であり、それを行うことにより行動特性が高まると いえる。   →教育の方法論として演習を中心としてものづくりを行う方法がある。   ※アイシン・コムクルーズから  ・新人研修後に社会人基礎力が上がったが、配属後に調査したら自主性が 落ちてしまったため、持続させるにはどうすれば良いか悩んでいる。  ・考えられることとしては、配属後は業務であるため、仕事の選択ができないためで あったり、若手が多いため、指導力が弱いと感じている。 ○パフォーマンス・インプルーブメント・アソシエイツ Yさん  ・教育の方法論として、教授システムデザイン(Instructional Systems Design)は基本中の基本であるため、   まずはそれを勉強して、一つのバックボーンとして、それをベースとして どういった教育を行うのか考えていってほしい。   ※教授システムデザイン(Instructional System Design):期待される 職務スキルを確実に修得させるためのデザイン方法論  ・教育のスタイルやOJTなどやり方は千差万別であるため、若手に対して 半年後や1年後に何が求められているのかを考えて、それに向かって必要な ものを修得させる教育を行っていくとよい。  ・また、何ができるようになってほしいかという教育のアウトプット(出口) を明確にすることが大切である。  ・5年後、10年後ベテランになった時、どういう状況になっているのかが 明確になっていると学習意欲やモチベーションが上がる。  ・"世界一の技術者になる"といった究極の夢・目的を掲げて、それに向かって 何が必要なのかといったプランを設計していく。  ・今の教育は与えられたものをこなしていく要素が強く、考える人が少なく なってしまった。そこで、なぜこれをやったのか、なぜこういう方法で やったのかというように、なぜ?なぜ?と徹底的に考えさせることが重要。 ○株式会社東芝 Kさん  ・組込みシステムの開発といった現場は、ずっと勉強していく環境であり、 自分を見失うことがある。  ・そもそも若手だけにスポットを当てるのは難しい。  ・教育を行う中堅以降の教育の方が難しい。 ■話題2「サポートできることはなに?」 ○アイシン・コムクルーズで行っているサポート  ・社内、社外研修   -社内研修の講師は技術部の社員が行う場合がある。  ・セミナーの案内  ・図書コーナー(推薦図書の購入)  ・メンター制度  ・スキル診断  ・表彰制度 ○名古屋大学 T先生  ・OJTという表現が嫌い。特に、T(Training)が嫌い。目の前に流れてくる 仕事をできるようになるような作業者を育成していく印象がある。なので、 OJD(Development)という言葉を好んで使用している。  ・あまりサポートしすぎるのもよくない。   - 言い訳人間を作ってしまいやすい。 「こういった環境がないからできません。」とできない理由を述べて ばかりいる人になってしまう。   - 開発の現場では、仕様書に不備があったり、プログラムにバグが あったりすることは当たり前で、完璧な環境は存在しない。   - 図書の購入までせず、自分で買うようにさせるべきである。ただ、 本の紹介はあった方がいい。    ※アイシン・コムクルーズ社内でも「本は自分で買うので、推薦図書購入の 制度は必要ない」という声がある。   - 今は、Webの文化となってしまい分からないことはWebで調べれば良いの で本は読まなくなってしまった。 ○SWEST16実行委員会 Hさん  ・私の会社にも技術書の本棚があり、利用する人はいるが全社員の1割程度 であり、その人たちはもともと本を読んでいる人である。本を読むことが 嫌いな人に本を読ませても何も残らず効果がないと思われる。  ・本を置くだけではなく、Amazonレビューのような本のレビューを社内で 作成したり、本を読んでいる人と情報を共有できればよいのではないかと思う。  ・また、それを延長すると教育やセミナーにも同じことがいえる。人それぞれ 成長ステップがある。会社の仕事が   回せるため、教育は必要ないという考え方は間違っている。人財部の人が 実際何かの教育を受けて、それが良かった。   為になったという生の声を教育を受けてほしい人に伝える機会があると良い。 ■まとめ ・OJTあるいはOJDを行う際は、教育を受ける人にゴールや目標をはっきり  定めて実施していく。 ・若手技術者を育成する中堅者や上司の教育も必要である。 ・与えられたものをこなしていくだけではなく、自ら考えて行動する  人の育成も行っていかなければならない。