**************************************************************************************** セッション s3-d テーマ: 振り返りもカイゼンする!実践的 振り返り手法の提案 日時:2013/8/23 10:30〜12:00 講師:水野 智仁 (ヴィッツ) 花原 雪州 (ソニー) 参加人数:15名程度 **************************************************************************************** ◆今回のセッションの背景 昨年のSPI Japan 2012(ソフトウェアプロセス改善カンファレンス2012)  プロセス改善に関する経験や技術の交流を行う会 二十数件のテーマのうち 振り返りのテーマが水野さんと花原さんの2件のみ  二人で意気投合し,振り返りを広めていこう CECTの技術交流会でも共に発表  振り返りの手法は世の中にそこまで数あるものではないので,  これも広げていこうという活動でSWESTでの発表を決定 ◆セッションのグラウンドルール  ・必ず1回は発言する  ・質より量を重視する  ・他の人の話を遮らない,批判しない  ・いろいろなアイディアを出す  ・長話は禁止  など ◆水野さんの自己紹介  株式会社ヴィッツに所属  名古屋で組み込み制御ソフトウェアの開発を主に行っている  機械制御室,品質保証室の兼任  プロジェクト管理やプロセスアセスメントを担当  Automotive SPICEの資格を取得  社内のプロセス改善に取り組んでいる ◆”GUNS”の背景  プロジェクトの振り返り(反省会)の実施規定がない 反省会をやっても,メールのやりとりだけだった 集まったとしても,思い出を語るだけの会だった 反省会をやらないプロジェクトもあった  過去の議事録(ホワイトボードのみ)をみると,  何も対策を打ってないまま反省会が終わっていた  つまり,本質的な情報共有が出来ていない  過去に起きた問題が再発していた  そもそも振り返りや反省会とは,  プロジェクトを通して,プロジェクトに関わったメンバーが  過去の行動を確認して改善活動に繋げる場である  どうやったら良い方向に向かうのかを考える場であり,  技術者の考える力を育成する場である  過去の反省会の課題  ・問題に対する改善策が網羅されていない 抜け漏れが多数存在した  ・準備不足 反省会のアナウンスに対して集まるだけ その場のみの記憶や思いつきで議論するため,発言が少なく,考察が足りない  ・ルールがない 議事録がない,発表ルールがない 一部のメンバーがただ参加して話を聞くだけだという状態  ・若手の発言機会が損なわれている ルールがないことも原因である  ・反省会のうれしさや意義を感じない 一部の人が話すだけならば出る必要がないのではないかと考えてしまう  では,振り返りの手法はどのようなものがあるのだろう  ざっと調べてみるとKPTやマインドマップがあがり,  試用してみたが枠組みだけ導入したため使いこなせずに広まらなかった  同時期にAutomotive SPICEの勉強会にて  SWOR分析というアセスメントの診断方法の本を紹介された  SWOR分析とは,強みと弱みに対して,それらの改善の機会とリスクを  四象限の形で書くという分析手法である  Automotive SPICEの勉強会の課題として,SWOR分析を使って  自分のプロジェクトの改善の機会やリスクを出すことを行うようと言われた際に,  この手法は振り返りや反省にも使えるのではないかと考えた ◆”GUNS”に至るまでの試行錯誤  振り返り分析シートをSWOR分析の手法を元に作成  複数のプロジェクトに対して試用  問題点   ・発生事象の項目数が少ない  例:半年のプロジェクトで良かった点が3つ など   ・表面的な問題しか出てこない  本質的な解決になっていない  対策   ・HAZOPガイドワードの導入(事象を導出するため)   ・なぜなぜ分析シートの導入(原因を掘り下げされるように)  これらを元に振り返り分析シートを改訂  この手法を”GUNS”と名付ける ◆”GUNS”についての説明  名前の由来   hazop GUide words, Nazenaze, Swor  銀の弾丸になるようにという思いを込めて  ”GUNS”の使い方   ・HAZOPガイドワードを用いて発生事象を出す   ・発生事象に対してなぜなぜ分析を行う   ・なぜなぜ分析の結果に対してSWOR分析を行い,    リスク(良かった点,悪かった点)を書く   ・良かった点のリスクとは? → 他のプロジェクトへの適用の可能性のようなもの   ・原因に対して改善点を5W2Hを用いて具体的に書く  理想論ではなく,自分が実際に出来るような改善点を書く  反省会の進め方   1.チームリーダーがメンバーにシート作成依頼 1週間以内の反省会開催告知   2.リーダーにシートを提出し,リーダーがざっと確認 一発で良い内容はあがってこないので査読する 確認しすぎると反省会の場で指摘の点が無くなる 原因の浅かったものに対してのみ,深堀して反省会に臨む   3.反省会の開催 進行役としてリーダー1名,書記1名は必ず設定 全員に話をしてもらうため,発表の順番は若手から  始めの方が発言しやすいから,後半の方々は他にないか探そうとする   ◆”GUNS”のまとめ   “GUNS”の効果   分析シートやHAZOPガイドワード,なぜなぜ分析をすることで ・改善の漏れが無くなった ・項目数としては2割〜4割増   また,反省会のルール化して,規定したことによって ・品質保証の活動の一貫とすることが出来た ・第三者から議事録などの記録が読みやすくなった ・若手の発言機会が増加 ・発言の波及効果    ・全員が自分たちで改善策やリスクを考える癖付けが出来た ◆”GUNS”の今後の課題  ・全員に発言してもらうため,振り返りに時間がかかる  ・振り返り分析シートの記入もあり,工数がかなりかかる  例えば, チーム共通の話題のみに限定する 持ち時間を決めて話す  など,良い方法を試行錯誤していく予定である ◆花原さんにバトンタッチ  花原さんの見解では  大別すると、主に  ”GUNS”は個人レベルでの振り返り  ”KWS振り返り”はチームレベルでの振り返り  で活用できると考えている  脳みそを活性化するためにブドウ糖がいいというコンサルタントの先生の助言より  普段の振り返りではチョコレートを使っているとのこと  雰囲気だけでも味わうためにチョコレートを配布  参加者から「いただきます」との声があがったり  チョコレートを対価に何かさせられるのでは無いかという質問が出て,  花原さんが冗談で返すなど,場が和む場面となった ◆花原さんの自己紹介 社内活動  ・ソニーの品質信頼性部門に所属  ・開発プロジェクトに関するプロセス改善を担当している ここでのプロセスとは”仕事のやり方”と思ってよい  ・最近は”KWS振り返り”の支援をメインで行っている 社外活動  ・日科技連 SQiP研究会2011,2012にて”KWS振り返り”の研究を行っていた 医療,IT,金融,半導体,無線機器,その他もろもろの 会社の実際の現場で試していただき,結果的に効果があると証明させていただいた ◆振り返りの手法を開発した背景  5年前に社内のプロセス改善を実施中,あるプロジェクトで大きなトラブルが発生  そこで起きていた問題 ・要求が五月雨式に降って来た ・納期が間に合わなかった ・コミュニケーションが少ないなどの原因で  スケジュールの変更が絶えなかった  これらの問題を再発させたくない  当時は反省会という形で実施  具体的にはアンケートとヒアリング  問題,課題の思い出しを実施 どんなことがあったか ひどいときは誰がこの問題を起こしたのかという犯人探し  などの情報から対策を提案する  しかし,対策の筋が悪いために,実施する気になれなかった  結局求められていたのは,問題や不具合再発の防止を実現する仕組みであると考えた.  これをなんとかしようと考え,開発した手法が”KWS振り返り”である ◆「KPT」と「なぜなぜ分析」を応用した”KWS振り返り”についての説明 ・”KWS振り返り”とは   K → KPT   W → Why(なぜなぜ分析)   S → Solution  以上の3つを組み合わせた振り返りの手法である  通常のKPTに加え本音を聞ける工夫を  通常のなぜなぜ分析に加え真の原因に辿り着ける工夫を  これらによって,納得感や共感のある対策を得られるという仕組みになっている  SQiP研究会のアンケート結果を用いて社外の考察 約8割の企業が振り返りを実施している その中でも,約半数の企業が振り返りは品質に貢献しないと考えている  それはなぜか 本音が聞きにくい,真の原因に辿り着いていない 納得感のある対策まで落とし込めていない  これらを”KWS振り返り”のきっかけの裏付けとする ◆”KWS振り返り”の3つのステップ  ・KPTを実施 KPT → 事実の把握と整理  ・KPTのPをインプットとし,なぜなぜ分析を実施 なぜなぜ分析 → 真の原因の特定  ・得られた真の原因を元に対策を立案する  ”KWS振り返り”の1つのポイント  「KPT」+「なぜなぜ分析」としたこと  KPTでの問題点 込み入った問題の真の原因を深堀することが出来ない  なぜなぜ分析の問題点 分析対象が自分たちの必要とするものが選ばれたのか確認できない  組み合わせることで互いの問題点を解消できる  実績のある問題解決の3つのステップ 問題意識(気付き) → 危機意識(把握) → 当事者意識(行動)  この流れと”KWS振り返り”の流れが同じであるため  問題解決に高い効果があると考えられる ◆”KWS振り返り”でのKPTについて  KPTとはKeep,Problem,Tryの3つの軸で整理整頓出来るフレームワーク  Keep → うまくいったこと,良かったこと  Problem → 改善したいこと,問題,課題,失敗したこと,困ったこと  Try → 新たにチャレンジしたいこと,提案など 一般的なKPTではリスト形式である ”KWS振り返り”のKPTでは新たに軸を追加し,マトリクスで表現 縦軸を影響度,横軸を緊急性とする メリット ・同じ案件で位置に差が生じた場合,その理由を議論し,  すり合わせることで,本音を得られやすくなる ・同じ案件が密集していた場合,その案件に対する関心度の強さを確認できる ◆”KWS振り返り”でのなぜなぜ分析について  KPTで密集度の高い(関心度の高い)ものを対象とし,  なぜなぜ分析とは「なぜ」を繰り返しながら,真の原因を特定する手法  真の原因に対して,対策を実施できるので,再発防止の可能性が高まる  “KWS振り返り”のなぜなぜ分析では,ロジカルシンキングを追加  メリット   ・全ての因果関係を,「モレ,ズレ,ダブリ無く」挙げることができる   ・因果関係のロジックを,「だから何」で確認しながら検証できる ◆”KWS振り返り”のグラウンドルール  すべし   ・本音で話す   ・会議室を出たら他言しない   ・お互いに意見を積極的に「聴く」   ・「いかに〜するか」など,建設的に表現する  すべからず   ・ひとりが長々としゃべる   ・個人攻撃   ・あげ足をとる   ・他社の話を遮る ◆”KWS振り返り”の結果  業種を問わず使えることを確認でき,振り返りが品質向上に貢献できると,  多くの方々に実感していただけるようになった  現場の声   ・KPTで発散しなくなり,なぜなぜ分析で真の原因も見つけられた!!   ・問題解決への意識が高まり,取り組みが積極的になった   ・本音で議論できることで,振り返り結果の品質が向上し, 対策の実施確率が高まった   ・「これからも,なぜなぜ分析します」 「自分の成長を感じます」など 人材育成につながった ◆今後の課題  ・プロジェクト終了時だけでなく,プロジェクト途中でも実施できる振り返りの確立  ・「ファシリテータ」と「なぜなぜ分析アドバイザー」の育成  ・振り返り結果の「知識と知恵の横展開」の仕組みの確立 ◆ワークへ   参加者を半分に分け,実際に“GUNS”と”KWS振り返り”を行った   お互い「夏休みの旅行」について振り返り,結果を比較する予定であった   しかし,途中で終了時間となり,ワークを行っただけで比較をすることが出来ず,   参加者の感想などを聴くことが出来なかったので,   アンケートに記入して頂く形になった 以上