********************************************************************** セッション:S5-c テーマ:ET ロボコンから考える組込みエンジニアリング 講師:山郷成仁(ET ロボコン東海実行委員)    河野文昭(ET ロボコン東海実行委員)    丸雅光 (ET ロボコン東海実行委員) 日時:2010/9/3 14:45〜17:00 参加人数:27名(終了時) ********************************************************************** (議事録本文) 14:45 講義開始 ●自己紹介 5分 各講師の経歴、好きなもの、趣味など ●本セッションの進め方の説明 5分 メインはワーク形式で行われる。 セッションの参加者がETロボコンに参加したと仮定して、 はじめに、ある目標を決めてもらう。 次に、その目標を達成するためには QCDの面から考えて、どのような技術・プロセス・マネジメントが 必要になってくるのかを考えてもらい、最後に各班で発表を行ってもらう。 ●組込みエンジニアリングの説明 10分 ・エンジニアリング  - 顧客の要求するQCDを満たす製品を作るには、どのような技術や   プロセスが必要になるのかを考えること  ・組込みにおけるQCD(Quality, Cost, Delivery)とは   - Quality:性能、信頼性、安全性、魅力   - Cost:材料費、人件費   - Delivery:納期。お客に対していつまでに、どのレベルで提供するかどうか         たとえ他社より優れていたとしても、納期を守らなければ意味がない ・プロセス  - 最終成果物(目標)に対して、中間成果物をどういう順番で   いつまでに作っていくかという途中の道筋のこと ・技術  - 成果物を作るための方法やテクニックのこと ・マネジメント  - 技術とプロセスがあれば、エンジニアリングは達成できるが、   より円滑に進めていくためには、プロジェクトをどのように進捗管理するか、   あるいは、周りの人のモチベーションをどのように上げていくのかが重要になる ・背景とETロボコン参加のメリット  - 近年の組込み業界は、仕事の専門化・分業化が深化したため、   若手の技術者・研究者の人は組込み開発を一通り体験する場が少なくなっているよ   うに思われる。   そのため、自分の業務とその周辺しか知らない、詳しくないという状況が起こりつ   つあるのでないでしょうか。   ETロボコンはそれほど高度な専門性を求めるものではなく、広く浅くではあるが、   普段触れることのないような領域まで含めて組込みの工程をを一通り体験すること   ができるメリットがあります。 ●ETロボコンの説明 20分 K氏「ETロボコンを知っている方はいますか?」  →半分程度が手を挙げる まずは、見た方が早いということで去年のチャンピオンシップの動画を見せる。  →インコースとアウトコースの2つの動画が会場で再生される ・ETロボコンとは  - 若手組込み技術者の教育のための、ロボットコンテストです。   参加チームは同一のハードウエアを用い、決められたコースを周回してタイムと   難所をクリアすることによって与えられるボーナス点によって競います。   また、作成したソフトウエア設計のモデルの質に関しても審査を行い、   総合的に評価を行います。 ・モデルについて  - ETロボコンでは、タイムトライアルのいかに速く走るかという部分と   提出されたモデルの質も合わせて評価する  - A3の大きさで5枚提出する  - 5枚の内容を1枚にまとめたコンセプトシートも提出する。(提出するものは計6枚)   →モデルの提出例が会場のスライドに表示される  - モデルには、全体の計画が書かれている。   つまり、各チームがETロボコンのプロジェクトをどのように進めてきたかが示され   ている。 このような仕組みから、ETロボコンが先ほどの技術・プロセス・マネジメントを バランス良く習得できる一つの教育コンテンツになっているいえる。 ・走行体NXT  - ETロボコンで使用される二輪倒立制御ロボット。  - 開発現場ではハードウエアを改良したりするが、ETロボコンではハードウエアを変   えることはできない  ・NXTの主な構成   - モータ:左右に1つずつ、計2つもっている。回転数も左右別に取得できる。   - 赤外線センサ:路面の反射率から、ライン上かどうかを判定する   - ジャイロセンサ:倒立制御のプログラムによって、立ったまま走行する 15:30 ワーク開始 ●各グループでの作業の様子 班構成は、1班3人で計9班。 班の中には、組込み経験が10年以上の熟練者が必ず一人入りリーダー役となり、 残りは、未経験者や初心者で構成される。 班単位で集まり、大きな画用紙・ペン・正方形型の付箋が各机に配布される。 画用紙の左上に、班員の名前と役割(リーダー役と発表者)と班の名前を書く。  Y氏「班の名前に困ったら、リーダーの好きなもので!」 ワークで行うこと、走行体NXTの説明、コースの形が説明される。  →コースがスライドに表示される。 画用紙の中央に、大きな丸を3個横に並べて描き、 それぞれの丸の上に「Quality, Cost, Delivery」と書く。 班が掲げるQCDの目標として、以下の中から選択する。 Deliveryに関しては一択。 Quality(三択)  - コースの変更に対応できる  - 失敗せずに完走  - 最速タイムで完走 Cost(三択)  - 未経験者5人  - 経験者1人+未経験者4人  - 経験者1人+未経験者2人 Delivery(一択)  - 第2回試走会で完成度80%、本大会で100% 選択した目標を達成するためには、どういうことをしなければならないかを考えて配布 された付箋に書き、 画用紙に貼り付け、マインドマップの要領で枝を伸ばしていく。 以下は議事録者が参加した班での活動内容 Quality(失敗せずに完走)  →難所を通らない  →ライントレースができる →各センサの特性を調べる  →コースを自分で作る  →情報収集をする  →テストを十分に行う  →コースの地図情報を持つ →コースを研究する  →速度を落とす  →チューニングされた電池を使用する Cost(経験者1人+未経験者4人)  →経験者による教育 Delivery(試走会で完成度80%、本大会で100%)  →役割分担を明確にする  →進捗管理を行う  →無駄な作業をしない →地図情報をもつなら、赤外線センサのドライバを作らない  作業の途中で、実際に走行体NXTが各班に回される。  現物を見ながら、赤外線センサの位置やタイヤの幅、バッテリーは単3電池が6本であ  ることなどの説明される。  Y氏「追加条件として、作業ができるのは定時後2時間です」  K氏「作業期間は約5ヶ月です」  Y氏「追加課題として、貼り付けた付箋の作業をいつまでに終わらせるかどうかを示  すために、     付箋に印をつけてください     第1回試走会 → ①     第2回試走会 → ②     本大会    → 本」  Y氏「班で作成したマインドマップは回収し、後日清書してお渡しします」 16:20 ワーク終了、発表開始 ●班での発表 1班3分を目処に、班の名前とその由来、作成したマインドマップの思いを発表。 ・1班目(カオス)  名前の由来:思いつき  Quality(コースの変更に対応できる)  - コース戦略を立てる  - コースの情報を収集する  - 本番の変更点を正確に測定する技術を確立する  Cost(経験者1人+未経験者4人)  - 技術教育をする  - 導入する記述の学習をする  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - 完成度の定義を明確にする  - 進捗管理を行って、スケジュールを決める  Q.①は多いが、②が少ない。試走会2までの間何をするのか?  A.試走会1でばっちりできるようにする  Q.経験者が1人いるが、ソースコードをもらってくるのはどうか?  A.思いつきませんでした ・2班目()  名前の由来:なし  Quality(最速タイムで完走)  - コース研究  - 限界速度の調査  - 練習用コースの作成  Cost(経験者1人+未経験者4人)  - 参加費の確保  - 技術教育用の資料作成  - 環境作り  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - 計画表の作成  - 部下のモチベーション管理  K氏「未経験者のスキル分析をした後で、役割分担をするとよい」  K氏「計画表を作成するのはよいが、見直すところも追加した方がよい」 ・3班目(ZEROからはじめよう)  名前の由来:なし  Quality(最速タイムで完走)  - ハードウエア特性を調べる  - コーナーで出せる最高速度を求める  - 難所をすべて通る  Cost(未経験者5人)  - 勉強会を開く  - 各自の得意分野を調査する  - 役割分担をする  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - とりあえず、走るものを作る  - 他チームのタイムを調べる  - スケジュールは最初は大まかに、後半は詳細にする  M氏「ハードウエア特性を調べるなどの段取りがよい」  M氏「経験者がいないので、スパイ活動をしているのはよい。私もしていました。」 ・4班目(プランツ)  名前の由来:名前のすべてに木がついているため  Quality(失敗せずに完走)  - 障害物を避ける  - 基本のライントレースができる  - 坂を攻略する  Cost(経験者1人+未経験者2人)  - 各ハードウエアの説明  - 未経験者に宿題を出す  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - 去年のスケジュールなどを参考にする  - 試走会1で60%の完成度にする  - 進捗確認を行う  K氏「プロセス定義がしてあるのがよい」  K氏「坂は避けられないので、はじめに対策しているのがよい」 ・5班目(焼肉@ベランダ)  名前の由来:リーダーが好きな食べ物  Quality(最速タイムで完走)  - ショートカットをする  - エッジチェンジをする  Cost(経験者1人+未経験者2人)  - 経験者に頑張ってもらう  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - なし  K氏「チーム内に本当に経験者がいて、どうやってみんなを驚かせるような走りをし  ようかという雰囲気が伝わってくる。     プロジェクト管理もしましょうね」 ・6班目(たっくん)  名前の由来:拓殖大学出身者  Quality(失敗せずに完走)  - センサの特性を調べる  - テストコースを作成する  - テストを重ねる  - 過去の作品や、ライバルの走りを参考にする  Cost(未経験者5人)  - 各自の実力を調べる  - 勉強会を開く  - 試作品を作り、失敗例からフィードバックする  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - なし  M氏「未経験者のみのため、勉強会を開くのは効率がよい」  M氏「開発プロセスが反復型になっていてよい」 ・7班目(FTH)  名前の由来:なし  Quality(最速タイムで完走)  - 確実にトレースができる、坂が走行できる  - 協議規約を理解して、ショートカットを狙う  Cost(経験者1人+未経験者2人)  - 勉強会を開く  - 経験者からノウハウを教えてもらう  - ハードウエアを理解する  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - 担当者を決める  - 開発計画表やスケジュールを立てる  - 試走会1で基本的なところ、試走会2で難所をクリアできるようにする  K氏「経験者のノウハウを生かした派生開発を目指していることが感じ取れた」 ・8班目(どうしよう)  名前の由来:組込み経験者が途中退席しなければならなかったため        残った2人は組込み未経験者  Quality(失敗せずに完走)  - 難所を避ける  - コースのデータをとって、地図情報を持たせる  - ライントレースをしない  Cost(経験者1人+未経験者4人)  - 経験者による指導  - モチベーションの向上  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - 試走会で摩擦を調査する  - 無駄な開発をしない  K氏「自分たちで作成したコースと本番のコースとの違いを探そうとしている点がよい」  M氏「戦略を絞り込んで、限りある資源を有効に使っているところが良かった」  Q.モチベーションの向上とは?  A.先ほどそのような講義を受けたため、そのように書いた。   具体的な方法までは考えていない。  質疑応答の後、モチベーションの向上の件について、以下のようなやりとりがあった  S氏「K君は何が好きか?食べ物とか。自分が欲しいものとか。」  K君「パソコン」  S氏「じゃあ、それ(おそらくここでは、失敗せずに完走するという目標のこと)が  できたら     パソコンを買ってあげるよって言ったらやる気になるよね?」  K君「はい」 ・9班目(名無し)  名前の由来:チーム名が思い浮かばなかったため  Quality(失敗せずに完走)  - コースアウトをしない   - インコース:黒い線の右側を通る   - アウトコース:黒い線の左側を通る   - 赤外線センサを制御する  - 姿勢の制御を重視する   - ジャイロセンサからモータを制御   - 坂道にも利用できる  Cost(経験者1人+未経験者4人)  - 各自の能力を把握  - 能力に応じた教育  Delivery(第2回試走会で完成度80%、本大会で100%)  - スケジュールを決定する  - 役割分担を決める  K氏「姿勢制御に着目したのがおもしろい」  K氏「もう少し時間があると、もっとおもしろいマインドマップができていたんじゃ  ないかと思います」  M氏「マインドマップは整理したものではなく、思いついたものをどんどん書いて  いった方がより発想が膨らんでいくと思います」  K氏「9つの班の発表をすべて聞いて、自分たちは思いつかなかったことが他の班は気  づいていたということが、     たくさんあったと思います。今後は、そういう部分を計画の中に織り込んでい     くと、いいかなと思います。ありがとうございました。」 ■まとめ ETロボコンに参加したつもりで、QCDの面から技術・プロセス・マネジメントを 参加者にワークとして考えてもらいました。 技術が必要なのはもちろんですが、マネジメントなども駆使して、 そもそも、やりたいことは何かはなんだろうかというところから、 逆に技術やプロセスが決まるということを体験してもらいました。 もし、機会があれば次回も講演を行いたいです。 以上。